« 本物の騎士が優雅な理由 | Main | あなたは、その「何様」でしかない »

2010.09.11

本当に2番じゃだめなのか?

ある男のところに、ある日、この世のものとも思えぬ絶世の美少女がやってきて、可憐な花のように恥じらいながら、美しい言葉で婉曲(遠回し)に、私はあなたのものなのだから好きにしていいと言う。
こんなことをやった女神が、ギリシャ神話の美の女神アプロディーテ(ローマ神話ではヴィーナス)だ。
男は英雄アンキーセースである。アンキーセースも、彼女の姿を初めて見た時は、あまりに美しいので、女神か、あるいは、ニンフ(妖精)と思ったが、彼女は、自分はただの人間なのだと言う。
なんと言ってもアプロディーテだ。どんな美少女アイドルだろうと足元にも及ばないはずだ。
神々すら、それも大神ゼウスすら抗うことが出来ないと言われる美の女神に、人間であるアンキーセースなどひとたまりもないだろう。

もっとも、日本の古神道に伝わる話では、神が人間の修行者に術を授ける最後の試験が、長い禁欲を守らせた後に、その者の理想とする女を幻術で創り出して誘惑させ、それに耐えなければならないというものがあるらしい。言うまでもなく、合格者が出たためしはない。

さて、アンキーセースがアプロディーテから感じた美がいかほどのものであったかは想像もできない。
だが、仏教には、それをうまく表現した話がある。
お釈迦様の従弟のアーナンダは、16歳の素晴らしい美少女との結婚を控え、心は浮き立っていた。だが、お釈迦様は、アーナンダに、結婚なんかやめて出家しろと言う。当然、アーナンダにそんなことは出来ない。
そこで、お釈迦様は、雪山にアーナンダを連れて行き、よぼよぼに老いたメス猿を見せ、「お前の妻になる女と、この猿ではどちらが美しいか?」と問う。アーナンダは憤慨して、「私の妻になる女に決まっています」と答える。
次に、お釈迦様は、アーナンダを天国に連れて行って天女を見せ、「では、お前の妻とこの天女では?」と問う。アーナンダは、「私の妻になる女とこの天女では、さっきのメス猿と私の妻になる女ほどの違いがあります」と答える。
「アーナンダよ。出家し、修行すれば、この天女はお前のものだ」
アーナンダが、すぐに出家を決意したことは言うまでもない。

そのものズバリは表現できなくても、何かの比較とで想像をさせる話の技術である。一種の類推(アナロジー)で、説法の名人には、これを上手く使う者が多い。イエスも優れたたとえ話を多用したことは知られているし、「20世紀最大の詩人」と言われるW.B.イェイツも、イエスの比喩(たとえを使った表現)の才能を高く評価していたらしい。

尚、アプロディーテの偉いところは、彼女自身、アンキーセースに恋したのだが、執着しなかったことだ。
彼女は、アンキーセースに「キュテレイア(アプロディーテの別名)と寝たなどと公言してはただではすまぬぞ」と言って去り、この時のアンキーセースの息子で、後のトロイア王アイネイアースを産む。
女神でも、月の女神セレーネは羊飼いの少年エンディミオンに、曙の女神エーオースはティトノスという人間の男に恋し、結局は不幸なことになった。執着したからだ。
(武内直子さんの「美少女戦士セーラームーン」では、セーラームーンことセレニティと、タキシード仮面ことエンディミオンは、このギリシャ神話のお話を基にしている)
アプロディーテもエーオースの失敗を教訓にしたと思われるところがある。
ところで、アプロディーテは、ヘパイストスという夫がありながら、この姿の醜い夫を厭って、男神の中でも1、2を争うイケメンのアレス(英語ではマーズ)と浮気してフォボスとディモスという神を産むが、アレスはエーオースと浮気する。
ギリシャ神話の神々は実に奔放である。

さて、アプロディーテは最も美しく、このお話のように思慮もあるが、神々の王ゼウスの正妻ヘラや、知恵の女神アテーナとなると、その賢さはいかばかりかと思う。
ところが、こんな話がある。
争いの神エリスが、神々の宴(海の女神テティスと人間の英雄ペレウスの結婚式)の中に、黄金の林檎を贈った。「世界一美しい女へ」とのメッセージを添えて。
この林檎を、アプロディーテ、ヘラ、アテーナが争う。「私が一番美しい」と。これがトロイア戦争の原因を作った(実際は、その後の複雑な経緯で戦争に至る)。

一番にこだわるとロクなことはない。
蓮舫議員の事業仕分けの時の「2番じゃだめなんですか?」として記憶に残ったスーパーコンピュータの研究開発であるが、スーパーコンピュータというのは、クレイ・リサーチ社のシーモア・クレイが徹底して世界最高性能にこだわったことも関係していると思うが、1番には大きな価値が感じられるものである。
ただ、クレイは、天才的な開発者であると共に、事業家であり、研究開発費は自分で賄い、そして破産した。しかし、復活し、さらに開発に情熱を注いだ。そして、彼の業績は偉大であった。彼が1番にこだわったからだ。

蓮舫議員のは、白雪姫の継母の王妃に、魔法の鏡が「1番じゃないといけないのですか?2番じゃだめなんですか?」と言ったようなものだろう。
ちなみに、アーナンダは、修行するうちに天女のことは忘れた。
仏道の修行を積むと、美と醜は同じものであることを悟る。そして、1番は2番と、そして最下位とすら共にあるものであることも理解する。それが分かってこその1番である。


【四つのギリシャ神話】
日本の古事記もだが、ギリシャ神話の神々も実に個性的で人間味に溢れている。特に、こういった伝承の話は面白い。しかし、奥深くもあり、興味は尽きない。ヘルメースの悪知恵は今日の西洋世界に影響しているし、また、ある専制国家が、意外に外交上手なのも、これに学んだとも思えるくらいである。

【あなただけができることをやりなさい ソフトウェア界の偉人23人の名言集】
コンピュータ世界の偉人達の実に興味深い物語である。これを読むと、コンピュータに対する認識が大いに変わり、達人になるかもしれない。

↓応援していただける方はいずれか(できれば両方)クリックで投票をお願い致します。
人気blogランキングへ ブログランキング・にほんブログ村へ

|

« 本物の騎士が優雅な理由 | Main | あなたは、その「何様」でしかない »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 本当に2番じゃだめなのか?:

« 本物の騎士が優雅な理由 | Main | あなたは、その「何様」でしかない »