悪を受け入れる
理想世界とは、悪が存在しない世界ではない。
暴力は悪といえば悪だ。
しかし、若い男同士が、必要なら腕力で決着をつけるというのは正常なことではないか。
暴力のいっさいを禁止するから、大勢で暴行して殺して埋めるなんてことが起こるのである。
動物や虫の世界でも、メスを争ってオスが戦うことはあるが、勝負が付けば戦いは終り、致命傷を与えることはない。
何かの漫画で、いかにも悪そうな学生が、「むしゃくしゃするなら殴り合いのケンカでもやれ。すっきりするぜ」と言う場面を見たことがあるが、健全ではないか。
現代の不良が老人か身障者しか狙わないのは、そんな健全さがなく、負けるリスクを全く受け入れないからではないだろうか。
昔の父親は、いじめっ子に殴られて泣いて帰ってきた息子に「やられたらやり返せ」と言ったものらしいが、そんな当たり前が通用する世界では、いじめっ子の方も限度はわきまえているものである。大勢でマットでくるんで窒息死させるようなことはしないし、確かに弱い子をいじめるのであるが、そんな子が、強くはなくとも健闘すれば認めるものである。どんな世界でも、いじめは決して楽しいものではないが、弱い子が強くなる良い薬ではあるのだ。
ナンパ(軟派。街頭などで男が女を誘うこと)も悪なのだろうが、そんなものがない世の中など考え難い。それを抑えつけるから、無理矢理女性を連れ去ろうとして、挙句、言うことをきかないから殺したなどということが起こるのではないか。
ケンカやナンパなんて、昔から小説や映画によく出てくるが、それを肯定的に扱った素晴らしい作品が多いだろう。
教師が女生徒に猥褻行為を働いたなんて話は日常茶飯事となっているが、あれは、若い頃に「ちゃんとしたナンパ」をしなかった哀れな教師の歪んだナンパなのではないかと思う。実は、そんな教師というのは、40も過ぎた中年になって大真面目にその女生徒に惚れているのである。そして、そんな事件で思うのだが、狙われるのは可愛い子なのだろうから、クラスの男子で、教師を殴って制裁を加えるヤツもいないのかと情けなくなるのである。「教師を殴るなんてとんでもない」というのがとんでもない。教師なんて、ある意味、殴るためにいるのである。
国どうしの争いというのもあるのは仕方のないことだ。しかし、勝ってる方はやり過ぎずに情けをかけ、負けている方は引き際をわきまえれば、両者完全ハッピーとはいかないまでも、最悪は免れるのではないか。
戦闘機の大群を繰り出してミサイルを雨あられと降らせ、あげく原爆を使うというのは、やる方もやり過ぎだが、相手にそこまでやらせる方も問題があるのかもしれない。
個人でも、ケンカして負けたら、身体を鍛えて出直すのは良いが、陰湿な手段で復讐すると、さらにその報復を受けるものだ。
害虫や悪性ウイルスに対抗するのは良いことだが、滅ぼしてしまうのはやり過ぎで、必ず恐ろしい報復が別のところからやってくる。
たとえば、よりパワーアップした害虫やウイルスの変種が現れるのである。
実際は、害虫やウイルスに依存している部分も大きいのである。戦争で死ぬことで英雄扱いされるなら、ウイルスで死んだ人間はもっと英雄なのである。
悪は決してきれいなものではない。目を背けたくなるものである。だが、死が無ければ生がなく、闇がなければ光がないように、悪があってこその正義である。
悪と正義は同じものだし、少なくとも、お互いがお互いを伴うものである。
だが、お互いが相手を徹底的に滅ぼそうとするところに問題がある。それは、裏のないコインを作ろうとするようなものだ。
貧乏人あっての金持ちであり、醜男あってのイケメン、ブスあっての美女で、お互い、対極の立場の存在に依存しており、平たく言えば、お互いが大いに世話になっているのである。
それを、頭でなく、腹の底から理解した時に理想世界が訪れるのではないだろうか?
【荘子】 古代中国の賢者、荘子は、正義と悪というのは、立場の違いでしかなく、完成と破壊も、ものごとの捉え方の違いであると言う。 人類は、この2千数百年前の知恵をいまだ得ることができずにいるようだ。 | |
【李陵・山月記―弟子・名人伝】 中島敦の名作短編集。「目と鼻の区別が付かない。善と悪の区別がつかない」。道に至った人間の悟りとはどのようなものか見ていただきたいものである。 |
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Comments
こんにちは。いつも楽しく読ませてもらってます。
殴り合いのケンカとか、ナンパとか、
ボクはしたことがないのですがKayさんはありますか?
どちらも若いときにする機会があればよかったのになーと思ってます。
Posted by: kerogg | 2010.09.16 07:51 AM
第1期ブログ奨学金をおめでとうございます。ブログ作成の参考にさせて下さい。
Posted by: さとし | 2010.09.16 02:39 PM
★keroggさん
ナンパというか、自分では自覚ないのですが、女性は積極的に口説いているようです。
殴り合いというのは覚えがありませんが、友達と取っ組み合いのケンカなら、何度かしています。
★さとしさん
ありがとうございます。
参考になるかどうかは分かりませんが、まあ、見てやって下さい。
Posted by: Kay | 2010.09.16 10:57 PM
先日はコメントの返答をありがとうございました。Kay様に感動してもらえて、とても嬉しく思いました。こちらこそ、今後ともよろしくおねがいします。
私の中では本物の悪も正義も存在しないものと割り切っています。どちらも至高の抽象的な定義ですからね。世の中で悪だ正義だと洗脳の如く説いているのはすべて「ごっご」だと日々思います。テレビなどで報道されているものは正に似非になってしまいますね。ただ、自身の価値観を否定したら悪だと判断するのが今も昔も変わらない世界の傾向だと思います。大まかな例を出しますと資本主義でしょうか。「お金」というものを正義だ悪だと振り分けている感じがしますが、互いを認めることが一つの理想に近づくのでしょうね。
This mustn't register on an emotional level.
の言葉を意識し、理性を保って、認めることができれば小さくケンカ、大きく世界的な戦争は起きなかったのだと思います。ただ人間の無限にある欲がある限り難しい話ですが。。
周りを見ても感じるのですが、誰もが良い部分しか見てないですよね。そう思うということは、私もそうなのかもしれません。対極の立場という面をより理解していきたいと記事を読んで感じました。また、腹の底からの理解ということで今後の私の課題とさせてもらいます。
コメントさせて頂く機会やkay様の目に入る機会を頂き、ありがとうございます。kay様の日々の活躍の健闘を同じ日本の地で心よりお祈り申し上げます。
Posted by: kaya | 2010.09.17 12:55 AM
★kayaさん
kayaさんは真面目な方だなあと思います。
私は、なかなか不真面目です。
世の中、大抵のことはうまくいきませんし、理不尽に溢れています。
その中で、たくましく気楽に生きるためには、もっともっと不真面目に、いい加減になろうと思っています。
しかし、それはなかなか難しく、身近な人間や、志の低い人間を非難したり否定してしまいます。
どんな人間も、さりげなくやり過ごせるようになりたいものだと思っています。
Posted by: Kay | 2010.09.17 11:25 PM