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2010.08.15

私(君)のために世界はある

熱愛中の2人には、世界は2人のためにあると感じるものらしい。
何をのぼせ上がってと思われるかもしれないが、物理学、あるいは、哲学において、宇宙は人間のためにありとする「人間原理」という考え方がある。宇宙がこのようなものであるのは、人間が存在するためだという、人間本意の考え方である。
「涼宮ハルヒの憂鬱」の中で、古泉一樹(こいずみいつき。高校1年生)が、主人公の1人であるキョン(高校1年生)に、この人間原理を長々と説明するシーンがある。古泉はこう言う。「我、観測す。ゆえに宇宙あり」。これは、デカルトの「我、思う。ゆえに我あり」をもじった(真似て言い換えること)ものだろう。

別に難しい話をしようという気はない。そもそも、私は難しい話が苦手だ。
ただ、上に述べた、古泉の「我、観測す。ゆえに宇宙あり」と、デカルトの「我、思う。ゆえに我あり」は非情に面白いものだ。

「我、観測す。ゆえに宇宙あり」と聞いたキョンは、「そんな馬鹿な」と言う。人間が観測しようがすまいが、宇宙は変わらないだろうという考え方だ。
「我、思う。ゆえに我あり」については、英国の作家コリン・ウィルソンは、「思おうが思うまいが、我はある」と著書で書いている。

これに関連した話として、有名なアインシュタインと、インドの詩人タゴールの対話がある。
タゴールは、「人が月を月として認識しなくても、本当に月があると言えますか?」と尋ね、アインシュタインは「ある」と言った。
もっと簡単に言うと、人が見ていない時に、本当に月は存在しているのかということだ。
現代の科学でも、何を観測しようとしているかによって、観測結果が変わってしまうことは明らかになっている。
つまり、人間の意志によって、世界のありようが変わってしまうのだ。
人が、月を月と認識しなければ、月は存在しない。
かっぱ寿司のCMで、グレイ型宇宙人が宙から降りてくるが、人間の若者はそれに全く関心を示さずに、寿司に夢中になるといったギャグがある。しかし、私が子供の頃、天使と話をしていたら、母親は、「あら、お友達?」と言って、無関心に行ってしまったこともよくあった。もっと現実的な話をするなら、コロンブスがアメリカ大陸に到着した時、現地の人には、彼らが船と認識できないコロンブスの巨大な船が全く見えなかった。彼らには、コロンブスの船は存在しなかったのだ。

真に重要な問題は、意志とは、あるいは、意識とは何かなのである。
人間の意志と限定すると、それは、表面の心、すなわち、自我になる。フロイトが確信した通り、自我は幻想である。よって、世界もまた幻想と言わざるをえない。これは、インドでは太古の昔から言われてきたことだ。
だが、著名な心理学者や精神分析学者にも信じない人がいるし、一般にも信じられていないかもしれないが、自我を超えた意識というものがあれば、その意識が観測する世界は幻想ではなく、真の世界である。

吉本隆明氏の有名な「共同幻想論」というものがある。人間は、個人の幻想や、家族など親しい間で共有する幻想の他に、団体、地域、国家、あるいは、人類といった規模で共有する幻想を持つ。そもそも、国家は幻想で成り立っている。
では、その共同幻想を共有する人々の間では、世界の在り様は同じであるが、同じ幻想を持っていない者にとって、世界は異なったものである。

「涼宮ハルヒの憂鬱」では、世界はハルヒという1人の少女の都合によって、このようなものになっている。
ハルヒが考え方を変えてしまえば、世界は全く違ったものになってしまうというわけだ。
おそらく、彼女は、直接的なコミュニケーションを介さずに、世界に共同幻想を送り込む能力でも有しているのだろう。ハルヒってのは、著者も言ってないと思うが、「張る霊(ヒ)」、つまり、膨張する霊だ。春は「張る」から来ている。漢字できれいに書くなら「春陽」だ。実際に、この名前の少女を知っているが、大した名であると思う。
上にあげた古泉は、ハルヒの能力を恐れる者達の1人だ。
だが、私に言わせれば、ハルヒなど全く恐れるに足りない。自我を超えた純粋な意識には、世界の在り様など、些細なことである。マジックショーと言った聖者もいたし、子供の劇だと言った賢者もいた。
あえて言えば、良いマジックショーや劇であるかどうかは、自我のあり方次第である。ちょうど、映画が良いかどうかは、フォルムの在り方次第であるのと同じだ。自我の様子を知るには、自分の世界を見れば良い。
「燃えよドラゴン」で、リーは、「良い戦いは、少人数で真剣に演じる劇に似ている」と言ったのが面白い。「戦い」と限定すれば、ほぼその通りだからだ。
もう少し広く言えば、ビートルズの“Nowhere Man”の歌詞にあるように、“the world is at your command”(世界は君の意のまま)だ。
だが、自我を打ち破るまでは、釈迦も言った通り、この世は縁起で成り立つ。つまり、我々は因果(カルマ)に縛られる。何事も思い通りにならない。だから、自我の奥にある純粋な意識を見つけなければならない。およそ昔からある、宝探しに関するお伽噺や伝説は、全て、この純粋な意識を探す物語なのだ。


【涼宮ハルヒの憂鬱】
本文に書いた、古泉の人間原理の話はこのシリーズ最初の巻である本書に全て収録されている。
50代の、ある大手教育会社の社長は、この本の面白さは認めながら、読み通せなかったそうだ。感性を測る一つのバロメーターであるかもしれない。大人が読んでも良い本と思う。

【共同幻想論】
素晴らしい本だが、はっきり言って、文章的に読みにくい。1つの行でも、その意味を限定できないという箇所がよくある。これをもって、「おそろしく抽象的」と評した人もいる。
「遠野物語」と「古事記」くらいは事前によく読んでおいた方が良い。

【ものぐさ精神分析】
「唯幻論」で有名な精神分析学者、岸田秀氏の代表的著書。
フロイト精神分析学の範囲に限定するなら、人間の持つ幻想に関して興味深く、また、吉本隆明氏の「共同幻想論」と比較にならないほど分かり易く書かれている。
尚、岸田氏のサイトは、以前、トロイの木馬に感染していた。私が発言しなくなってから、あまり更新のないサイトだったが、どうなったのだろう。恐くてアクセスできないのだが。

【方法叙説】
「我思う、ゆえに我あり」という言い方は、どうもデカルトの考えをよく表していないように思う。彼は、神や存在、宇宙に関する、非常に深遠な洞察を行っていたのだ。
おそらく、「方法叙説」は、とても簡明に書かれているのに(デカルトは、12歳の子供に読めるように書いたと言っている)、これまでは学者達が小難しく翻訳してしまい、一般にあまり読まれなかった。本書は読みやすい。ただ、養老孟司氏の解説が長過ぎるように思う。

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Comments

張る霊(ひ)の説、とても気になりました。
ハルヒが”はらひ(はるひ)”なら、
キョンは神道の”はらひきよむる”ところの”清む(きよむ)”からきてるのでしょうか…?

他の登場人物の名前についてもきになりました。

Posted by: | 2010.08.16 at 09:13 PM

申し訳ないですが、無記名のコメントは禁止しております。

Posted by: Kay | 2010.08.16 at 11:01 PM

あ、すみません…
名前の入力欄を見落としていました。

Posted by: Naho  | 2010.08.17 at 02:20 AM

★Nahoさん
いろいろ考えてみて下さい。
私とは、違う考え方のようですね。

Posted by: Kay | 2010.08.17 at 10:43 PM

改めましてこんにちは。何度もすみません。

作者の谷川流さんが、登場人物の名前を神道用語からとっている気がして、突き詰めて考えていたら神道家の方が書いていらっしゃるブログに辿り着き感激しています。

ハルヒ=「祓い」の語源「張る霊」
キョン=神道の概念「はらひきよむ」の「きよむ」
みくる=「罪」の語源「包み」を読み替えて「くるみ」→「みくる」
ゆき=齋忌(最も清浄な神饌)
いつき=斎(神に仕える人)

というのが、わたしが勝手に想像しているところなのですが…神道に全く通じるところがなく、大変浅はかであります。

なんにせよ、ハルヒというエネルギッシュなキャラクターの魅力で、普段ライトノベルやアニメなどほとんど興味を持たないのですが、全作スラスラと読めてしまいました。

Kayさんの他のブログ記事も大変面白いものばかりで、これからも立ち寄らせていただきます。
それでは、失礼いたしました。

Posted by: Naho  | 2010.08.18 at 03:08 AM

★Nahoさん
なるほど。
とても面白い!大したものだと思いますよ。
有希の神饌というのが特に良いと思います。彼女はそんな運命かもしれません。

Posted by: Kay | 2010.08.18 at 10:47 PM

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