心の中の悪魔
あなたは、自分を、正常な人間と思っているだろうか?
正常な人間とは、世間において正常な人間と見なされるよう振舞っているという以上の意味ではないと思う。
何かの本でこんな話を見た覚えがある。
2人の少女がいた。1人は大人びて、心優しい。もう1人は純心で子供っぽい。
2人はとても仲が良いのだが、ある時、子供っぽい少女が、大人びた少女に怒りをぶつける。
「あなたのように心のきれいな人に、私の気持ちなんか分かるはずがない」
大人っぽい少女は、怯えるほど戸惑いながら何も言えない。なぜなら、自分の心の中に、醜く汚いものが恐ろしいまでに渦巻いていることを感じているのだが、それを知られるのが恐いのである。
何の本だったかは覚えていないのは、おそらく、多くの小説や漫画等に同じような話があるからに違いない。
つまり、これが、ありふれた普通のことなのである。
ただ、この大人っぽい少女に心惹かれるのは、彼女がそれを自覚することのできる、極めて「純粋な」心の持ち主であるからだ。
こんな話もある。
清純な妹が、淫乱な姉を嫌い、家を出て行く。
しかし、時が流れ、その妹は、姉以上に淫乱な女になっていたというものだ。
これも、状況には特殊性があるが、傾向としては一般的なことだ。
いずれにしても、これらは、自分というものに対する大誤解が生んだ悲劇、あるいは、喜劇なのだ。
自分を、この世に「生まれ落ちた」存在。つまり、世界と切り離された孤独な存在と思っているから、世間の偽りの絆を持とうとして、奇妙な幻想に囚われ、単に変な欲望に付きまとわれるのである。
我々は、自分が世界そのものであるという自覚を得ることを諦めてはならない。
【桑田次郎アダルト短編集2 感覚転移】 確かにアダルトでエロチックな作品だが、特にR18指定はされていないようだ。 単なるエロスではなく、天才桑田次郎(現在は桑田二郎)の作品だけあり、人間存在の深い洞察に満ちた傑作と思う。 本文で引用したお話(淫乱な姉と清純な妹)もこの中にある。 |
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