目覚め
誰にも、同じような覚えがあると思う。
私は、小学生の時、クラスのあるおとなしい女の子がものすごく好きだったのだが、ある時突然、全く彼女に興味が無くなってしまった。彼女に幻滅するような出来事があったとかいったような原因は何も思い当たらない。いまだ不思議なことだと思う。
また、ある時期までは、ミカンの缶詰が大好物で、天国の食べ物だと思っていたのが、やはりある頃から、嫌いというほどではないが、そんなに美味しいものだと思わなくなった。
「マジック・ストーリー」では、著者とされる男は、ある場所を心地良いと感じ、そこで毎日寝ていたが、ある日目覚めると、「よくこんなところで寝てたものだ」と思ってそこを引き払った。彼は、「文字通り目覚めたんだ」と言う。「マジック・ストーリー」の前半部では、そのような急激な自己変革の話がいくつか紹介される。目覚めた後は別人となり、全く違った人生を送る。
逆に、何かの体験が自分を劇的に変えると期待していたのが、いざやってみると何も変わったこともなく、まるで詐欺にあったみたいな気分になることもあるかもしれない。コリン・ウィルソンは、セックスの体験が本質的にそうであると言う。
でも、結局は何もなし。そうやって、あたしはいつの間にか高校生になっていた。少しは何かが変わるかと思っていた。
~「涼宮ハルヒの憂鬱」より~
このように、「思いもかけずに自分が変わる」ことと「変わると思っていたのに変わらなかった」という、相反することを取り上げたが、それらは見せかけに過ぎない。
好きだった女の子に興味が無くなったが、別の女の子に夢中になる。ある食べ物に興味が無くなったが、別の食べ物が好物になる。
逆に、涼宮ハルヒは、自分は何も変わっていないと思っているが、実はひどく変わってしまったのだ。
変わるのは、表面的な心だ。
言ってみれば、1つの幻想を捨てて、別の幻想を持ったというだけのことだ。それは幻想であるのだから、何ら実態のない夢のようなものだ。
自分では何ら自覚のない幻想もある。いや、幻想そのものは自覚が出来ず、その作用が、場合によっては自覚できることもあると言う方が正しいと思う。「自分が変わった」なんてのも幻想だ。
全て幻 浮かんではまた消えてく
邪念かき消す指先に絡み付いた無色の鎖
もがくほど孤独を編んでいた
~agony(作詞、歌:KOTOKO)より~
富士の高嶺に 降る雪も
京都先斗町(ぼんとちょう)に 降る雪も
雪に変わりは ないじゃなし
とけて流れりゃ みな同じ
~お座敷小唄(作詞者不明)より~
成し遂げるべきは、幻想を捨て去ることだ。
生きている人間が幻想を全て捨てることは不可能だと言う人もいるようだ。それは、ある意味正しい。
ある女の子が好きな自分と、その子に興味を無くし、別の子を好きになる自分。しかし、それは本当の自分ではない。
そんな自分を見ている本当の自分。本当の自分自体は変わらない。そんな神秘な自分に目覚めることが悟りで、その時に、我々は世界の所有者となる。
私は世界の所有者、
七つの星と太陽年の所有者、
シーザーの手腕、プラトンの頭脳の所有者、
主キリストの愛、シェイクスピアの詩の所有者。
~エマーソン論文集「精神について」の第1章「歴史」より~
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Comments
私も基本的に自分はうまれたときから本質は何も変わらないと思っている人間です。
世の中、大人になると大人になったから今までとは違うと特に成人式を挙げた二十歳は思いたがるようですが。
一体、昨日と今日の境にどれだけの差があるのかと思いますし。お酒が飲めたからタバコが吸えたからセックスができたから大人になったと思いこみ自慢する方や逆にそれらをしない方を大人と認めないか卑下する方はどこがいったい人間として成長しているのか私には理解ができません。
いくつになってもバカなことをする方はばかな事をされていて、逆に幼い子供でも本当にその年齢なのかと思うほど大人な性格の子も沢山います。
ただ単に世の中の人々のいう成長とは興味の対象が変わっただけであることも多く
その本質は、意外と生まれた赤ん坊ないし幼いころとは見かけが変わっただけで何一つなかなか変われていないのことの方が多いのではないかと、思うことが多いです。
多くの方は時がたてば勝手に変わる勝手に大人になれていると思われている方も多いですが、どこかで自分自身で気づきを得るかまたは積極的に気付きを得ようと自分自身にもとめない限り本質的な変化は得られないのではとよくかんじます。
Posted by: ゆり | 2010.07.29 11:40 PM
★ゆりさん
二十歳が大人という線引きは愚かしいですね。あれは洗脳手段でしょうね。
世間的には、私は何者でもありません。
まあ、お互い、もう少し力を抜いた方が良いかもしれませんね。
Posted by: Kay | 2010.07.30 10:52 PM