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2010.06.03

ギリシャ神話とは何か

「ギリシャ神話」の本は大変に多い。
書店で、そんな中の1つである、日本人著者によるものを見ると、序文に、「ただのお話なんだから、ここから何か教訓を得ようなんて思わないでくれ」といったことが書かれていた。
それはその通りと思う。
一方では、膨大な自己啓発関連の本を出している大学教授が、「ギリシャ神話は生き方を教える最高の本」と、これが実用的な啓発書であると説く。
まあ、それはそれで1つの個人的考え方として尊重する。

しかし、著名な神話学者であるカール・ケレーニイが著書に書かれているように、ギリシャ神話は、伝記でもメルヘンでも教訓書でも啓蒙書でもない。
いわば、もっと、はるかに深遠なものである。
もし、これを、伝記や教訓書として読むなら、これほど馬鹿げたものはないだろうし、啓蒙書にしてしまえば独断と偏見に満ちてしまう。メルヘンというなら、もっとマシなものがいくらでもある。
それは、古事記や旧約聖書も全く同じである。
しかし、フロイトやニーチェもだが、およそ人間に関する天才的洞察力を持つ者で、ギリシャ神話を軽く扱う者もいないし、ヨーロッパあたりでは知的な人間の必須の教養と考えられることもあるが、学校で学問として学ぶようなことでは決してない。

ギリシャ神話にこんな話がある。
大神ゼウス(英語ではジュピター)の孫である王妃ニオベは、ゼウスの息子アムピオン王との間に7人の娘と7人の息子を生む。ニオベもアムピオンも人間である。
女神レトは、ゼウスの姪であるが、ゼウスとの間にアポローン(英語でアポロ)とアルテミス(英語でダイアナ)という名高い双子の神を生んだ。
ニオベは、自分はゼウスの子孫を14人も生んだのに、レトは2人しか生んでいないのだから、自分の方がレトよりはるかに偉大であると言う。
母親であり、オリュンポスの女神であるレトを侮辱されたアポローンとアルテミスは怒り、ニオベの14人の子供を全て殺害し、さらに、その報復でアポローン神殿を焼き払おうとしたアムピオン王も殺す。
普通に読めば、人間が神を侮辱したという罪を責めるとしても、そこまでやるのも度を超えていると思うだろう。
だが、旧約聖書でも、古事記でも、3人の娘だとか、7人の息子といった言葉がある時には、それは、人間の持つ何らかの性質を現しているものだ。
ニオベの14人の子供も、男性的な7つの欠点と女性的な7つの欠点を指し、理性の神アポローンと純潔の女神アルテミスがそれを滅ぼしたと見るべきだろう。
また、傲慢というものを徹底して戒めるという思想も感じさせる。神道においても、慎みこそ人間の最大の徳と考えることもあり、理解できることと思う。

誤解を恐れず言えば、ギリシャ神話は人間に大いなる力を与えると思う。
旧約聖書と異なり、ギリシャ神話や本来の神道は宗教ではないので、意図的に歪められることも支配者に利用されることもなかった。その分、後の多くの作家や詩人により加筆、修正があったことは確かだが、本質はむしろ生き続けたと思う。
また、ある不可思議な理由で、ギリシャ神話には貴重で有益なことがあるが、それは言わない方が良いかもしれない。
ホメーロスの「イーリアス」や「オデュッセイア」が長過ぎるなら、ヘシオドスの「神統記」や、「四つのギリシャ神話」(「ホメーロス賛歌」より4つの話を抜粋したもの)をお薦めしたい。尚、「ホメーロス賛歌」は、ホメーロスの著作ではなく、ホメーロス風の詩で神々を褒め称えたもので、作者は無名の詩人(実際、名前は分からない)であるが、これが非常に味わい深いものである。


【神統記】
格調高く易しい詩で、宇宙の生成からゼウスによる世界の統一を雄大に語ります。著者ヘシオドスは紀元前700年頃の詩人ですが、普通の農民でもありました。神々の系統や権能についてもよく理解できるお薦めの書です。

【四つのギリシャ神話】
ホメーロス風賛歌より、デーメーテール、アポローン、ヘルメース、アプロディーテーの4つを取り上げたものです。優雅な詩で、それぞれの神の特質もよく分かると思いますし、実に感慨深いものがあります。例えば、愛と美の女神アプロディーテーのお話はかなりエロチックですが、芸術的エロスと言えると思います。

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