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2010.06.22

エンスージアズム(霊的な情熱)

人生を積極的に生きるには、「情熱」といったものが必要らしい。
情熱は、英語で一般にパッションだが、英語にはエンスージアズムという、これも一種の情熱を表すのであるが、神秘的な雰囲気のある言葉があり、精神的指導者がよく使うことがある。
辞書によれば、エンスージアズムは、単に「神がかり」「熱狂」とあるが、霊感を受けた状態や、天啓を得た時のことを表すと言って良いと思う。
エンスージアズムはギリシャ語に語源があるらしい。ソクラテスも、それを、神の意識が転送されてくるようなことと言ったらしいが、エマーソンも、自分の魂の中に神の魂が流れ込んでくる体験のことを語っている。
なるほど、神秘的なことのようだが、人にはそのようなことがあるのである。
私がよく話題にする、マズローやウィルソンの「至高体験」、ロランの「大洋感情」、イェイツの「エクスタシー(忘我)」、岡本太郎の「爆発」、夏目漱石の「天賓」も、エンスージアズムと同じなのかもしれない。

エンスージアズムを持つきっかけは誰にでもあるのかもしれないが、それを保持できた人は大きなことを成し遂げるようだ。
漫画家の水木しげるさんは、幼い時、おばあさんに子守唄代わりに妖怪の話を聞かせてもらったことがエンスージアズムになったと思う。水木さんは、 65歳を過ぎてから妖怪を描くのがさらに楽しくなったと、何かの対談で言われていたようだが、彼の妖怪に対する情熱はまさにエンスージアズムだと感じる。

ところで、美女が英雄を作ることがあるが、美女を単に性欲の対象にするのではなく、エンスージアズムにまで高めた精神を持つことで男は英雄になるのだろう。
15歳の絶世の美女クレオパトラは、単に地方の武将に過ぎなかった51歳のシーザーを英雄に変えていった。

伝説に過ぎないと考えられていたトロイアの遺跡を発掘したシュリーマンの情熱も異様なものがあったが、彼は、少年の頃からホメロスの「イーリアス」を愛読し、それがエンスージアズムともいえる霊感や天啓を得たのかもしれない。
「イーリアス」はトロイア戦争という、トロイア対ギリシャの大戦争の伝説で、最高の文学と言われる至上の叙事詩である。多くの天才画家もこれを作品の題材とした。
トロイア戦争を起こしたのもまた、ヘレネという絶世の美女だった。
スパルタの王女だったヘレネは少女の時にすでに美女の誉れ高く、12歳の時に、アテナイ王で英雄のテセウスにより略奪されている。
白鳥に化身したゼウスが美女レダと交わる絵画を見た人も多いと思うが、その時のレダから生まれたとされるのがヘレネである。
シュリーマンのことはいざ知らず、「イーリアス」においてヘレネがエンスージアズムを与えることも多いかもしれない。あのモローもヘレネの絵は多く描いており、恐るべき傑作となっている。

今で言う、男にとっての「萌え」や、女性にとっての「イケメン」は、パッションという意味での情熱なら感じさせるかもしれないが、どうせなら、エンスージアズムを得られるような相手があれば良いだろう。しかし、それをもたらすのはあくまで自分である。
クレオパトラやヘレネに逢ったとしても、エンスージアズムを得るのは特別な男なのだ。


【モロー (新潮美術文庫 35)】
顔のないヘレネーや、亡霊化したヘレネーばかり集めた感もあるが、神秘的である。
白い牛に化身したゼウスが、ヨーロッパの語源にもなった美少女エウローペをさらって風をまいて疾駆する「エウローペの略奪」が表紙になっている(本の中にも掲載されている)。

【ギュスターヴ・モロー―絵の具で描かれたデカダン文学】
こちらは、顔のあるヘレネーの絵がクレオパトラと隣り合って掲載されている。「レダと白鳥」の絵も多い。

【イリアス】
1冊にまとまって(複数に分かれた本が多い)、読みやすい文章の新訳によるイリアス。

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