利用された二宮尊徳
老荘思想と言われる、老子、荘子の教えの根本は「無為自然」です。人間的な作為および思慮分別をせず、全てを天の法則に任せることで、究極の平和や調和である「道(タオ)」と一体化できるというものです。
もちろん、これを世間的解釈でとらえるなら、これほど馬鹿げた教えはないでしょう。
しかし、そこにおぼろにでも、何か大切なことがあるということは、誰しも感じるのではないかと思います。もっとも、今は、食欲と性欲だけでやっている人が多いですから、必ずしもそうとは言えないかもしれません。
ところで、老子の無為自然に敢然と異議を唱えたのが、二宮尊徳です。
二宮尊徳という人には、複雑な感情を持たざるを得ません。
第二次世界大戦後、アメリカは、彼を日本人の思想統制に大いに利用し、日本政府もこれに従いました。ただ、それについては深入りしないでおきましょう。
二宮尊徳は、本当は無為自然の貴さをよく知っていたのだと思います。
しかし、今回はそれにも目をつぶり、決して彼への批判ではなく、当時の彼の教えを、ただ話のテーマとして借ります。
尊徳は、無為自然では駄目で、人の作為が大切であると説きますが、その理由は以下の通りです。
田畑を手入れせず、自然に放置すれば、雑草が生え、土地は荒れ、作物は採れなくなってしまいます。
家だって、常に掃除をしたり、修理をしないと、すぐにあばら家になり、やがて崩れてしまいます。
人が手を加えてこそ、全て立派になるというのは自明ではないかということです。
そのため、人の行いの効果を大きくするために、勉学に励むことや勤労を何よりも貴いとしました。
もちろん、これらは一面の真理であり、否定はできません。しかし、否定できないからこそ、思想統制に利用されれば簡単に人民を洗脳・奴隷化できるわけです。
この、田畑や家を良く保つ教えを、人間の身体に置き換えてみましょう。
手入れせずに放置すれば駄目になる田畑や家とは、すなわち、人間で言えば死体です。
死体は、そのまま放置すれば、腐敗し崩れ、おぞましい状態になるでしょう。
しかし、生きた身体であればそうではありません。
このことから分かることは、人間はただの物質ではないということです。生命がその本質です。生命が去ると、たちまち身体が崩れるのですから、生命がいかに偉大で神秘であるかが分かります。
いかに科学が進歩しても、生命を解明することはできません。DNAなどが分かったところで生命そのものは分からず、かえって生命の謎は深まるばかりです。
真面目に考える限り、神としか言いようがないものの存在を認めないわけにはいかなくなります。
アンデルセンの「絵のない絵本」の中で、少女は占いをして、愛する人が生きていることを信じた時、心が、そして命が燃え立ちました。
何より大切なことは生きるということです。
そして、生物としての命を超える命があるのですが、それを知るためにも、生物としての命を大切にしなければなりません。
身体にとっても、田畑や家にとっても、大切なことは生命を保つことです。
田畑の生命を保つためには、雑草や害虫を除く必要があります。いくらちゃんと水を与え、肥料が足りていても、それはかえって雑草や害虫を肥え太らせ、一瞬で田畑の生命を奪います。
人間も同様です。世間の妄信や偏見を除かないと、あっという間に、本当の命を失います。
田畑に水をやることや、人間が食べ物を食べることも大切です。しかし、もっと大切なことがあります。
「花もまた魚」と言います。身体にとって魚という食物が必要なら、心にとって花は栄養です。心の栄養がないなら、身体が生きていても意味はありません。
言葉で述べれば万巻を要することですが、あまり言葉を費やすとかえって分からなくなります。
とはいえ、言葉が足りなかったのも事実ですが、欲望を捨てるとよく分かるようになります。
今は、テレビCMでも、インターネットの広告でも、食欲と性欲を煽るものがほとんどです。それらは、人々の命を奪っています。本当の命を失いたくないなら注意して欲しいと思います。
【荘子】 荘子は実際は膨大な書です。内編、外編、雑編の3つからなりますが、外編、雑編は、後の世の人が書き加えた部分が多くあると想われます。本書は、荘子自身によると考えられる内編と、外編・雑編でも純粋に荘子の思想を表しているものを収録し、1冊にしたものです。 数多くある荘子の現代語訳の中でも、非常に読みやすく癖のないものだと思います。 | |
【老子・列子】 こちらも読みやすい老子です。 ところで、私は、お伽噺のような列子が大好きです。研究者によっては列子を軽視する者もありますが、賢者達はよく列子を引用します。よく読めば、その簡明で面白いお話の中に恐るべき知恵があります。それは、老子、荘子に優るとも劣りません。 |
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