安パンとサンマの缶詰
以前、NHKで見たが、中国から、李さんという40代後半の男性が、日本で博士号の学位を取得するために、奥さんと娘さんを連れて日本に来ていた。中国では、学位の取得に年齢制限があるからだった。
しかし、彼はただの中年中国人でしかなかった。生活のために肉体労働などのアルバイトをし、奥さんも働いた。収入は少ないし、安定しているわけでもなく、一家は貧しかった。彼の食事はいつも、一番安いパンとカップラーメンだった。
クリスマスには、李さんは全財産である1万円を銀行から降ろし、12歳くらいの娘さんと外で食事をした。彼はラーメンを、娘さんは中華風ヤキソバを食べただけだった。娘さんへのクリスマスプレゼントを買いに店に入ったが、彼女はシャープペンシルの芯と消しゴムしか取らなかった。
李さんは、ある時、とうとう体調が悪くなり、大変な決断をして、サンマの缶詰を買う。夕食はサンマの缶詰とパンだった。彼は、「大変に美味しい」と言いながら、缶詰の汁も大切に飲み干す。当時、飽食、美食であった私には抵抗があったが、1日中空腹な今では、それが非常に美味しそうに感じる。実際、美味しいに違いないと思った。私は、魚もほとんど食べないが、真似してサンマの缶詰を時々食べるようになった。サンマの蒲焼や塩焼きの缶詰は、安価なものが普段は百円だが、時々、安売りで88円位になっていたら5つほど買う。大変に美味しいと思う。
また、魚の缶詰は、EPAやDHAという不飽和脂肪酸を多量に含むものが多く、非常に健康的だそうだ。
尚、私は、パンとカップラーメンが悪いとは思わない。大リーグのホームラン記録を持つバリー・ボンズは、毎日必ず日本のカップラーメンを食べるらしい。非常に良質のタンパク質が摂取できるそうだ。
李さんの体調が悪くなったのは、別の原因と思う。しかし、たまに少し美味しいものを食べるのも良いことと思う。
それと、李さんは「この年で勉強するのは無理があるのです」と、文化大革命のために学問を続けられなかった過去を嘆いたが、学問に年齢は関係ないと思う。また、過去は決して否定してはならない。
彼の制限された思考に問題があったとは思うが、人間は自分の潜在的な考え方を疑うことは出来ない。そうやって、人は自ら閉塞された、辛い世界を創り出す。それを打ち破るのが人生である。
李さんの2度目の学位試験の時、彼はアルバイト先を解雇されていた。奥さんもまた、仕事を失っていた。そして、李さんはまたも試験に落ちる。
八方ふさがりであったが、家族にはどこか開き直った明るさがあった。
とても可愛い彼の娘さんが笑って言う。「神様は、夢を諦めずに追いかける人を見捨てないのよ」と。
さらに翌年も、李さんは合格できなかった。しかし、その翌年、最後のチャンスでついに経済学博士号を取得し、中国の大学で助教授の職を得て帰国した。
今も、彼のはるかな旅路は続いているのだろうか?
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Comments
はじめまして、ただの通りすがりです。
この番組観てました。もう10年くらい前ですよね。
まだ10代でしたけど日本という国、
自分がどれだけ恵まれてるか、可能性に満ちてるか、
そしてどれだけ甘えているか、いろいろ思いながら
観てました。最後は号泣・・耐え忍ぶ奥さんも印象深かったです。
白髪になり歯が抜け、インターネットしかしない私のものより
古いパソコンに向かう姿が思い出されます。
いいきっかけをありがとう!さいきんうつうつしてたので!
Posted by: | 2009.12.24 01:34 PM