アトムと8マン
手塚治虫さんの「鉄腕アトム」のハリウッド版である「ATOM」(CGアニメ)のニュースを時々見る。
しかし、アシモフの感動的な小説「アイ・ロボット(邦訳:われはロボット)」を超えたものではないと思う。
「鉄腕アトム」が日本で放送開始されたのは1963年。45年以上前の話だ。
同じ年に、「鉄腕アトム」(フジテレビ放送)に対抗する目的でTBSが企画したことから漫画、アニメが制作されたのが「8(エイト)マン」だ。原作に新進気鋭のSF作家であった平井和正さん。漫画は、脱手塚治虫を目指して、本格的イラストレーションを学んだ桑田次郎(現、桑田二郎)さんが共にオーディションで選ばれ、狙い通り、8マンはアトムに十分以上に対抗した。
アトムと8マンの顕著な違いは、共に1963年(あるいはそれ以前)の制作であるが、アトムは未来(2003年)の話であるのに対し、8マンはその時代の話であることだ。
共に、特に当時としては夢のような話であるが、8マンは、今見ても、案外に科学的設定が地に付いているところが面白い。当時は、LSIが発明されて間もない時代で、真空管が全盛であり、ロボットの電子頭脳を造れるはずもないのだが、旧ソビエトの誇り高き天才科学者デーモン博士が、8マンの電子頭脳に対し、「さすがのわしも、これだけは造れなかった」と言うところなど、何かリアルに感じるのである。漫画やアニメで出てくることは無かったが、8マンは超古代文明のテクノロジが採用されているという話もあり、谷博士が8マンをどう作ったかは謎の部分が多い。
ハリウッド映画「アトム」は、日本の元のアニメが遠い未来を想定していたこともあり、ストーリーはやや異なるにしろ、日本のアニメのままの感覚で見れると思う。
対して、8マンは、現在はどうなっているのだろうか?
実は、8マンであった、元探偵の東八郎、およびその開発者である谷博士はこの世になく、情報空間にいるのである。8マンの正統な続編である「8マンインフィニティ」は、今後の世界で更に重要度を高める情報世界を本格的に扱っている。日本の漫画、アニメでも「コレクター・ユイ」などは、21世紀直前の作品でありながら、情報世界主体の作品であり、なかなか面白かった。
「8マンインフィニティ」は実に素晴らしい作品ではあるが、世間から進みすぎていたかもしれない。どうも、制作が中断しているような雰囲気である。
かつての「8マン」にも登場した巨大コンピューター「超人サイバー」は現代風に進化して甦り、原作にはなかった(ただし原作者が脚本を書いたアニメで登場する)谷博士の息子ケンも登場して重要な役割を果たす。
8マンインフィニティ(第1巻) 2005年出版。現在、6巻まで出版されているが、ストーリーは未完。連載開始は2004年。 巻末に「8マン」原作者の平井和正氏と、平井氏が指名した「8マンインフィニティ」の原作者七月鏡一氏の対談前編と、「8マン」漫画作者の桑田二郎氏のインタビュー前編があり、非常に興味深い。 | |
8マン(第1巻) 初版は1968年。全5巻。連載開始は1963年。 当時、手塚治虫的な絵が主流だった中で、完全なプロポーションの人体をシャープに描いた桑田次郎(現、桑田二郎)さんの絵は画期的だった。 プロポーションだけでなく、切れ長の目のさち子さんの憂いの表情は実に魅力的で、海外でも人気があったようだ。 | |
8マン(6)(文庫) 事情で桑田二郎氏が執筆できなかった最終話を、1990年に桑田二郎氏が26年振りに執筆して完結させた。 この最終話「魔神コズマ」は、原作者の平井和正氏が最もお気に入りの作品であったと言われる幻の傑作である。 |
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