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2009.10.28

「007 カジノ・ロワイヤル」の問題

先日、地上波放送された、「007 カジノ・ロワイヤル」をHD録画しておいたものを、日曜に見た。
これは2006年のアメリカ、イギリス、ドイツ、チェコの合作だが、1967年に同じ題名のイギリス映画が制作されている。
共に、イアン・フレミングの007シリーズの小説の第1作のタイトルを使っているのであるから、同じであっても何の不思議もない。
1967年版は、パロディ映画であり、正式な007シリーズとは考えられていないが名作の誉れ高い。尚、今回は、こちらの映画は話題にしない。

さて、2006年版「007 カジノ・ロワイヤル」に戻る。
主演は、初めてジェームズ・ボンドを演じるダニエル・クレイグ。
まず彼に驚いた人が多いのはもっともなことだと思う。
いまだボンドといえば、ショーン・コネリー、ロジャー・ムーアという人も多いはずだ。彼らが、おそらく、小説とは全く異なるボンドの世界的なイメージになっていると言って間違いない。あらゆる面で洗練された英国紳士であり、プレイボーイではあっても、女王陛下への忠誠心と品格を忘れない。万能のスーパーマンで、常に沈着冷静。スパイのイメージを上げこそすれ、下げることはなかったはずだ。

ダニエル・クレイグに驚くというのは、まず醜さだ。美男子とは言い難く、おまけに時として下品と映るかもしれない。
また、コネリーやムーアも、肉体的には決して貧弱ではなく、むしろマッチョだったが、クレイグはほとんどプロレスラーで、上品さに欠ける。
クレイグはイギリス人で、映画制作当時37歳。映画の中のアクションは正に凄絶。歴代のボンド達とも桁違いの迫力だが、暴力的過ぎて嫌悪する人も少なくないはずだ。また、この映画の中のボンドが、歴代のボンド達と違い、エゴが強く、自己中心主義に感じさせる設定である。
ところが、面白いことに、視聴者がこのボンドの欠点と認識しそうなところを、今回のボンド・ガールで、当時26歳のエヴァ・グリーン演じるヴェスパー・リンドに厳しく、そして皮肉っぽく指摘される。なんとなく、制作者の意図的なものを感じないでもない。

ところが、このクレイブのボンドが大金持ちを演じる姿が実にサマになるのである。
はちきれんばかりのボディに、上品なシャツとタキシードが意外に似合う。ホテルの受付の女性との会話はまさにウィットのある上品な金持ちのものであり、それらに洗脳されてか、2シーターのスポーツカーだが、英国の超高級車であるアストンマーチン・DBS(6リッターV型12気筒DOHCエンジン搭載。3千万円を軽く超える!)が実に似合って見えた。
ここらが、クレイグのただものではないところではないかと思う。
余談だが、アストン・マーチンとは、アストン・クリントン村と、創業者のライオネル・マーチンの名前から取ったもので、DBは、一時期経営者であったデヴィッド・ブラウンのイニシャルだ。

さて、私はこの映画を面白く思ったかというと、それは全くない。
現実にはあり得ない世界をリアルに見せるのが確かに映画の面白さかもしれない。
しかし、映画というものは、ファンタジーであるなら作り物めかすのが制作者の良心である。
スターウォーズなんて、いかに優れたCGを駆使していても、見ている者の意識は、それが完全なファンタジーであることを認識している。
もし、現実以上にリアルなものを作る場合には崇高な目的が必要であるが、そんな傲慢な制作者はいない方が良い。
この映画は、崇高な目的なしに、いかに非現実的とはいえ、不適切な部分でリアルなものにしてしまった。それは視聴者に共有される幻想を作り出す。やがて大きな問題を生み出さないとも限らない。
これが制作者のエゴであるのか、誰かの意図を受けたものであるかは分らない。いずれにしても、私は影響は受けないのであるが、そうでない者も多いはずだ。

現実的ではないがリアルに感じさせて、幻想を与えたことが幸いした例として、世界的画家の池田満寿夫さんのことを思い出す。彼は、高校生の時、フランスの世界的画家モディリアーニの伝記的ではあるが、ただの三文小説を読み、それを信じてしまった。それは確かに池田さんのモチベーションになったかもしれない。
しかし、彼は言う。何を想像しても構わない。しかし、現実としては受け入れられないものがあるのだと。彼は、ある意味、醒めた男でもあったと思う。
醒めているとは、想像に必要以上の感情を持たないことである。
エロチックな想像もたまには良いが、あまり飲み込まれないこと。
美味しい食べ物の想像に感情を込めすぎれば、食の慎みは適わない。
想像力は強大だが、時に打ち勝たねばならない。それには、欲望を捨てなければならない。それができれば、宇宙は従うだろう。

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Comments


クレイグは人種的に夫に似ていて、年齢も近いこともあり、この作品が公開されその姿をみたときはぎょっとしたものです。

金髪碧眼のボンドに抵抗ありましたが
2作めからは目が慣らされまして、私も受け入れていまいました。
夫との違いも明らかになってきたしね・・・
腹が成長してしまいますね、俳優ではない人たちは・・・
スクリーンの世界ではいつまでも腹が出ない幻想に浸りたいです。

Posted by: りす | 2009.10.29 03:08 PM

★りすさん
クレイグは、その後、評判はすごく良さそうですね。私は、1作目の途中から、良いと思うようになっていました。
食を慎めば、腹は決して出ません。
俳優も、大変な金をかけてダイエットしてる人も多いようですが、食を慎めばタダですね。

Posted by: Kay | 2009.10.30 09:47 PM

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