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2009.07.06

憧憬の力

我々は「ロマン」なんて言葉をよく使う。
私は、あるビッグビジネスマンから、長年に渡って多くの話を聞いたが、結局、彼の話の中で私が憶えているのは、「ビジネスはロマンだよ」というものだけである。
音楽家にとっては音楽はロマンだろうし、格闘家にとっては格闘技がロマンなのだろう。

おそらく、ロマンとは、ロマンチシズム(ロマン主義)のことで、ある種の芸術の精神的傾向のことである。
元はと言えば、通俗ラテン語にロマンス語というものがあり、ロマンス語で書かれた中世の騎士物語をロマンスと言ったらしい。

しかし、一般的に、ロマンとは、精神に情熱、高揚、憧憬を起こさせる何かと言って良いと思う。

一般的には人は損得で動くと言うし、ディール・カーネギーは、人が最も求め、行動の最大要因となるものは自己重要感であると著書「人を動かす」に書いている。ナポレオン・ヒルは、いや、性エネルギーだとしていると思う。
アメリカ的自己啓発では、目標設定の力が、人を行動させるのに最も効果的であると言うものもある。
しかし、私は、人を人らしく動かすのは憧憬だけであると思う。
いかなる自発的な動機の中にも憧憬があるのだ。
だからこそ、何かにエネルギーを注いできた人たちは、自分のやっていることをロマンと言うのだと思う。
情熱や元気、勇気も、憧憬を根源として生まれるものであることは間違いない。

そして、10代の時の憧憬というものは一生を左右するものであろう。
画家の横尾忠則さんもそのことを指摘し、自分の芸術の源泉が、少年時代に夢中になった冒険小説やターザンであるということを本に書かれていたと思う。
死後半世紀が過ぎても、多くの巡礼者の絶えない、南インドの聖者ラマナ・マハリシは16歳の時、たまたま家にやってきた親類の男に聞いたアルナチャラという場所に憧憬を持ち、ついには家を捨ててそこに行き、一生をそこで過ごすことになる。
作家のよしもとばななさんは、横尾忠則さんとの対談で、やはり自分の想像力の源が子供の頃に見た特撮ドラマ「河童の三平」(原作は水木しげるさん)だと言われていたようである。

子供の頃に「ルパン三世」を夢中で見た人なら、ワルサーP38の精巧なエアガンは生命力を高めてくれるお守りになるに違いない。そういえば、初代仮面ライダーの変身ベルトは、やはり当時のファンであるおじさん達に売れているようである。
多少高価でも安い投資である。それで生きる力を得られるなら。

もっとも、人の中にある最も深い憧憬は神話や伝説の中にある。
そこには、古代の聖者によって究極の真理が埋め込まれている。
畏敬を感じるものの中に深く分け入った時に光に触れる瞬間がある。
生命である我々がそれに憧憬を抱かないはずがない。
我々にとって、「古事記」や日本の昔話の貴重さは、いくら強調してもし過ぎることはない。かぐや姫が、いかに地上で精神的にも大きく成長し、ひときわ憧憬に足る存在になったことを我々は見逃している。
古典の熟読をお薦めする次第である。

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