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2009.01.26

私とは?

オバマ大統領の就任式の観衆が200万人であったという。
200万人というのが、どのくらいの数かまるで想像がつかない。岡山県や栃木県の人口がそれ位としても、やはりピンとこない。
甲子園球場や東京ドームの収容可能人数が5万人位なので、その40倍と言った方が分りやすいかもしれない。
200万人の観衆をちょっと見てみたかったと思う。もちろん、一目で見渡せるものではないだろう。

5万人の観衆を見て人生を変えたというお話がある。
それを見た小学校6年生の女の子が神になったのだ。
「涼宮ハルヒの憂鬱」という、シリーズで500万部売れたという小説と、そのアニメのお話である。
ハルヒというヒロインの少女は、小学6年生の時、家族と一緒に初めて野球観戦に行く。おそらく甲子園球場だろう。
ハルヒは、球場の観衆を見て圧倒される。日本中の人が、みんなここにいるのではないかと感じた。
父親に(彼女は「おやじ」と呼ぶが)、いったい、どれくらいの人がいるのかと尋ねたら、満員なので5万人くらいだろうと言われた。
家に帰ってから、ハルヒは電卓で計算する。日本の人口が1億人くらいだと学校で教わっていた。割り算をすると、あそこにいた観衆の人数は日本の人口のわずか1/2000。
ハルヒは愕然とし、自分の人生が色褪せてしまうのを感じる。
自分がいかにちっぽけな存在か思い知ったのだ。
自分は何か特別な存在だと思っていたが、そうではなかった。そして、自分のような生活はありふれた誰でもやっているものだということに気付いた。
だけど、世の中には、ちっとも普通じゃない楽しい生活をしている人もいるに違いない。なぜ、それが自分でないのだろう?
ハルヒは思う。面白いことは待っていても来ない。中学生になった彼女は自分を変えてやろうと思った。待っているだけの女じゃないことを世界に訴えた。しかし、高校生になっても何も変わらなかった。ただ、彼女が知らないだけなのだが・・・。

面白い話だ。
ハルヒは自我の崩壊の危機に直面したのだろう。
彼女は自分を特別な存在だと感じていた。その根拠は、彼女が並外れた美少女で、学校の成績も良かったというところにあったと思う。
それらの美点は、彼女の生活を楽しいものにしていたのだろう。
しかし、知的な彼女は、大観衆の中では、それがちっぽけなつまらないものであることに気付き、それまで自分の自我を支えていた、自分が特別であるという根拠が壊れ、自我は安定を失ったのだ。
ある意味、健康な衝撃ではあるのだが、やや激しすぎたのだ。
人は誰でも、神からスタートする。赤ん坊の時、自分は何もしなくても全ての必要が満たされる。そもそも世界と自分の間に区別を感じない。そして、精神分析学の教えるところでは、その影響は一生残る。
だがやがて、人は自分が神でないことを理解していく。
しかし、挫折を経験すると、かつての神であった時の記憶に逃れ、尊大な振る舞いをし、現実に立ち向かおうとしなくなる場合がある。幼児性退行と呼ばれる現象である。子供の頃から外見が良かったり、学校の成績が良くてちやほやされたり、親が過剰に甘やかすとそうなりやすい。一流大学は出たが、社会に出る意欲がないなどはその典型かもしれない。
ひきこもりの多くの原因もここにある。
だが、ハルヒは自分で神の地位を取り戻そうとしたのかもしれない。
美しく、優秀な彼女は幼児性退行を起さず、ひきこもりにもならなかった。
彼女は、エンスージアズム(情熱)を掻き立て、世界をも征服しようとしたのだ。
結果、彼女は神になる。
前にも書いたが、ハルヒとは、張る霊(ひ)である。魂にエネルギーを与え膨張させることなのだ。
子供は、一度は自我を確立せねばならない。
そして、その自我が強ければ強いほど大きな壁に突き当たる。
だが、壁に思えたものは実際には存在しない幻想だ。滅ぼすべきは自我である。
人は、自我を滅ぼすことを恐ろしいことだと感じる。しかし、それを成し遂げることで神に近付く。
ニサルダガッタ・マハラジは言った。「堅い木ほど燃えやすいように、個性も強い方が滅しやすい」と。
何もしなかった人間より、波乱万丈の人生を送った人間の方が人間性が高いのはそのためだ。
ひきこもりが悪いとは言わないが、ひきこもりはよほど慎みがないといけないのだ。でないと、かえって自我を増大させる危険が高いのだ。何もできない人間ほどプライドは高いものである。

ハルヒは高校1年生で再び壁に突き当たったのだが、既に彼女は神だった。
なんともややこしい話だ。
だが、古事記を読んでいるなら、さして違和感はない。
天照大神(アマテラスオオミカミ)という、高天原(天界)を統べる女神はとても人間的だ。
いや、古事記の神々はみんな人間的なのだ。

自分が特別でないことを悲しむ、小学6年生の愛くるしいハルヒに私は何を言うべきだろう。
何も言う必要はないが、面白いお話がある。

ヴェルタースオリジナルという、ストーク社(ドイツ)のキャンディがある。私は食べたことはないが(笑)。
テレビCMを見た方は多いと思うが、老人が、4歳の時、おじいさんからこのキャンディをもらったが、こんな素晴らしいキャンディをもらえる自分は特別な存在に違いないと思ったと言う。

だが、彼はやがて、他の子供達も、このキャンディをもらえることを知ったと思う。
その時も、彼は、自分が特別なわけではないと思い、ハルヒのようにがっかりしたのだろうか?
私は、きっとそうだと思う。そして、彼はハルヒのように、自我の確立を目指すのだ。

そして、老人は最後に言う。
私の孫は特別な存在なので、彼にこのキャンディをあげるのだと。
これを、小市民的に、「私の孫は、自分にとって特別な存在」という意味に取るのも良いだろう。大ヒットした大泉逸郎さんの演歌「孫」の世界である。
しかし、この老人は、口で言わなくても、そうではないと思っているはずだ。

オバマ大統領の就任式に駆けつけた200万人の観衆は、自分は歴史的な場面に遭遇した特別な人間だと思っているはずだ。自分の他にも200万人いようが100億人いようが知ったことではないだろう。やはり特別なのだ。
ハルヒは冷笑しながら言った。「野球なんて興味なかった」
彼女の意識は受動的だった。
自発的、能動的、意欲的にオバマ大統領の就任式に集まった人たちとの違いはそこにある。
ハルヒは、生活全般において、知らず知らず、精神が受動的になっていたのだ。
野球場の観衆は、トドメの一撃であっただけだ。彼女の憂鬱は、遅かれ早かれ訪れたのだ。
映画「タイタニック」で、ローズが自分をカゴの鳥と感じ、17歳にして人生に絶望していた理由もそれだ。
ローズと違い、ハルヒは自分を奮い立たせ、全てに能動的になった。
だが、エネルギー切れは必然だった。
彼女は活力の補給を必要とした。いや、正しくは、エネルギーの供給を邪魔するものと戦わねばならなかった。そのために、閉鎖空間を発生させ、神人を暴れさせた。
だが、ある時から、彼女はあまり閉鎖空間を発生させなくなる。
もちろん、キョン(主人公でハルヒのクラスメイトの高1男子)と出逢ってからだ。
だが、キョンは自分の価値観にいちいち逆らってくる。そして・・・他の美少女を見てしまう。
ハルヒのイライラは最高潮に達し、世界は崩壊の危機を迎える。
この時の危機は回避され、ハルヒの精神は安定するが、キョンの中学時代の同級生の美少女の登場で、本質は普通の乙女であるハルヒは再び閉鎖空間を発生させる。

だが、著者の谷川流氏は、この続きをなかなか書かない。もう1年以上。

オバマ大統領は、母親は白人である。
両親はオバマが幼い時に離婚し、彼は母親に引き取られた。
オバマは、家庭では白人として暮らすが、学校では黒人としていじめにも遭う。
そして、「自分はいったい何者だろう?」と考え続ける。

ハルヒも、そして、著者の谷川流氏も、自分とはいったい何かを考え続けたに違いない。

「私とは?」
これは人類最大のテーマでもある。
南インドの聖者ラマナ・マハリシは、ただこのことだけを問い続け、ただこのことだけを問えと言う。

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Comments

kay様 はじめまして。
いつも興味深い記事をありがとうございます。
「私とは」セクシャルマイノリティのトランスジェンダーというものに一応、分類される者ですが
私とはを 只 問い続ける表現者でありたいと 思いつつ
どこまでも自我やらに追い込まれつつ 笑 
こそこそ絵を描いたりしております。

これからも更新楽しみにしております。

Posted by: kase | 2009.01.27 05:08 PM

カロリーセーブなら記憶力Up!…ドイツで研究発表
1月27日10時20分配信 読売新聞


 【ワシントン=増満浩志】健康な中高年が摂取カロリーを制限すると、記憶力が向上するという実験結果を、独ミュンスター大学の研究チームが26日、米科学アカデミー紀要電子版に発表した。

 やせ過ぎていない50~79歳の男女49人を3グループに分け、19人にはカロリー摂取量をふだんより30%減らしてもらった。別の20人は認知症の予防に役立つという説のある不飽和脂肪酸の摂取をふだんより20%増量し、残る10人は従来の食生活を続けた。

 実験前と3か月後に言葉を覚えるテストを行った結果、カロリーを抑えた19人の点数は約20%も上昇した。他の2グループは成績に変化が見られなかった。

 カロリー制限によって、体内の血糖値を調整するインスリンが効きやすくなった人ほど、成績の伸びが著しかった。こうした体質が、脳神経に何らかの良い影響を与えているとみられている。

Posted by: | 2009.01.27 09:15 PM

★kazeさん
はじめまして。
やることがあったのに、思わずkazeさんの作品に見入ってしまいました。
才能とは良いものだと思います。羨ましい・・・^^;

トランスジェンダー、良いと思います。
人間は、医学的には元々みんな女なのだそうで、そこから約半分ほどが適当に男になるのだそうです。だから、そうはっきり分ける必要もないように思うのですけどね。
そもそも、全生物が、もともと全部雌でしたから。
アンデルセンが17歳くらいまでは、人形の着せ替え遊びをしていたらしいですが、本当は一生やっていたかったんじゃないかなと思うことがあります。私もやりたいです(笑)。
ネット上では、私はほぼ必ず女性だと思われます。
男っぽい女が真にカッコいいですし。
私の姪っ子も、クールでナイスガイな・・・乙女です(笑)。で、やっぱり学校やめましたよ。

kazeさんが、自我とどう折り合いをつけるのか、戦うのか、和解するのか、とっても興味があったりします・・・いえ、これは失礼をば^^;

Posted by: Kay | 2009.01.27 09:53 PM

見て頂きまして、勿体ないお言葉をば…ありがとうございます。感激です。
長期にわたります登校拒否と、性別の事情が良くも悪くも反映されていることだけは確かですね 笑
私はネットでも実社会でもほぼ男性に間違われますよ。
最近、あえてトランスジェンダと公表しました。
そうなんですか!?長い事読ませて頂いていましたが、ずっとkayさん男性と思っておりました。
優秀そうでらっしゃる姪っ子さんの今後も…密かに楽しみにしております。

自我はほんとにも 行きつ戻りつ強敵でどうなることやらですけども…笑
こちらを覗きながら頑張って行きたいと思いますっ(*^-^)
ではではっ ありがとうございました。

Posted by: kase | 2009.01.28 12:37 AM

★kaseさん
あわわ・・・kaseさんのお名前を間違えて書いておりました。申し訳ありません。
sをzに変換するのは、「涼宮ハルヒの憂鬱」の慣習で・・・と言い訳はいけませんね^^;
姪っ子は、今は自信を無くしていますが、私も楽しみです。女の子にはよく告られるそうですが・・・(笑)。
男と女、黒人と白人、人と幽霊・・・私もこだわりなくいきたいものです。
「チャイニーズ・ゴーストストーリー」という映画で、インという導師(仙人みたいなもの)が「わしは人なのか幽霊なのか?」と悩んでましたが、私なら幽霊でもいいかな・・・と(笑)。
今後も期待しておりますです!

Posted by: Kay | 2009.01.28 06:31 AM

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