奇跡とその前兆
私は、朝食も昼食もとらないので、会社での昼休みも、特に行くところもなく、自分のデスクにいる。
しかし、ある日、ちょっと銀行に行き、ついでに百貨店の中の書店に寄ってみた。すごい人ごみだったが、驚いたことに、他の人が全員止まっているように見えた。
世界の中で私だけが動いている。
サイボーグ009の加速装置の世界だ(笑)。
あるいは、H.G.ウェルズの「新加速剤」の世界である(サイボーグ009の加速装置は、この新加速剤をヒントにしたと思われる)。
私は、他の人をすいすいと追い抜き、楽々と書店に到着した。これも少食・粗食の力に違いなかった。
改めて、少食・粗食の力を思い知った。少食・粗食は、バイオ加速装置を作るのだ(笑)。
しかし、この現象は、奇跡の前兆だったのかもしれない。以下に述べる。
いくつか欲しかった本が頭の中にあったのだが、ことごとに見つからなかった(後で全てAmazonに注文して既に入手した)。
そこで何を思ったわけでもないが、詩のコーナーに身体が動いた。
すると驚いた。北星堂書店出版の「W.B.イェイツ全詩集」が置いてあった。
10年ほども前から欲しいと思い、しかし、入手できずに手に入れることを諦めていたものだ。
もともとはイェイツの名前は知らなかったが、不思議な出来事で彼を知ることになった。
10年ほど前、私はテーブルの上に何の意図もなく、3冊の本を重ねて置いていた。
「至高体験」(コリン・ウィルソン)、「神秘の薔薇」(W.B.イェイツ)、「美少女戦士セーラームーン14巻」(武内直子)である。
イェイツの「神秘の薔薇」は、単に装丁が気に入って買っただけだった。
しかし、偶然にも、「至高体験」と「美少女戦士セーラームーン」の両方にW.B.イェイツの名前が出ており、しかも、非常に重要に扱われていた。
ウィルソンが引用したという「イェイツ全詩集」は、翻訳では、北星堂書店から出ていることを知った。当時、まだAmazonはなく、クロネコヤマトのブックサービスに、同じ北星堂のイェイツの「ヴィジョン」と共に、この「W.B.イェイツ全詩集」を注文したが、「ヴィジョン」は届いたが、全詩集は入手不可という返事だった。私はいくつかの大きな書店にも探しにいったが、見当たらなかった。Amazonが出来てから検索したが、常に入手不可だった。それですっかり諦めていた。
イェイツの詩集は何冊も買ったが、いずれも満足できなかった。そもそも読めない漢字がやたら使われていた(笑)。
そして、ついに、北星堂書店の「W.B.イェイツ全詩集」を手に入れた。これまでの、どのイェイツ詩集よりずっと良かった。とても読みやすく、しかも全詩集だ。こんな素晴らしい本を、もっと出版しないのは残念なことである。
尚、他に気に入ったイェイツ詩集がなかったと書いたが、最近一つあった。「イエーツ訳詩集 最後のロマン主義者」(加島祥造 港の人刊)である。先日も紹介した通り、加島さんは、老子、荘子の素晴らしい本を書いているが、本来は英文学者であり、自ら詩人である。これも素晴らしい詩集であった。また、画家でもある加島さんは、イェイツの「あなたが年をとって」と一体になった絵を描いておられた。これがまた素晴らしい。実は、イェイツもまた画家を目指して美術学校で学んだこともあった。彼の父親は肖像画家であった。
最近、良い本にばかり逢う。これも少食・粗食の奇跡であろう。
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