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2008.05.05

優れた嘘は世界を進歩させる

著名な映画監督の伊丹十三氏(故人。1997年に自殺)は、大変な読書家であったようだ。
寝室では必ず読んだそうだが、1つの本を読み終わらないうちに、次に読む本や、その次に読む本を持ち込むほどであったらしい。
なぜそれほどまでに読むのか?
彼の読書は「力の読書」であった。良い本を読むことで自分を強くしようとしたのだと思う。逆に言えば、常に自分を強くしないと不安であったのだと思う。
その伊丹氏が、心理学者の岸田秀氏の本に出会い、かなり傾倒したようだ、岸田氏の代表作とも言える「ものぐさ精神分析」のあとがきを書いていたが、岸田氏の本を読み、頭にかぶせられていた覆いを取られたように精神的な壁が消えたと言う。しかし、それは錯覚であった。
岸田氏の思想は「唯幻論」である。全ては幻想であるとしている。これは神秘的な意味ではなく、人間精神の認識作用のことを指している。もっと的確に言えば、フロイト理論である。フロイトは、人間の本能は壊れているので、その補償として心なるものを作った。しかし、心は自然に立脚しない作り物であり、幻想であるとした。
もはや古い考え方である。
現在は神経科学が発達し、やがてこれが、心理学をその1分野に収めてしまうであろうことも十分に予想できる。心理学が曖昧で、そもそも科学でないことは岸田氏も認めている。

伊丹氏にとって気の毒なのは、岸田氏の本を読み、精神の障壁を除かれたようなことを言っているが、そもそもが、岸田氏自身、自分の唯幻論にそんな力があるとは思ってもいないと思う。岸田氏は、所詮、人間は幻想の中で生きるしかないと言っているのであり、その幻想を破る方法なんてものは一切書いていないし、可能とも思っていないと思う。
人間の幻想を破る知恵を持つのは私である。伊丹氏は、私のところに来るべきであった・・・というのは冗談である(笑)。

唯幻論は面白いし、非常に勉強になる。しかし、目的を誤ってはならない。あれは優秀な思索であり、興味深い仮定であり、真実も含んでいるとは思うが、能力開発に使えるものではない。精神疾患の治癒に役立つこともあるかもしれないが(岸田氏自身は優れた治癒効果を得たという)、それにはフロイト精神分析学をはじめ、かなりの勉強をし、その上で幸運に恵まれる必要がある。そもそも、フロイト自身、精神分析医でありながら、治療に成功したことはほぼないのである。

ネット上ではあるが、私は岸田氏に、「百年バレない嘘は世界を進歩させる」と書いたら、岸田氏は「唯幻論が百年バレない嘘であることを僕が一番望んでいる」と返事をしてくれた。百年バレない嘘をつけたら、世界に貢献したと言えるのである。

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Comments

こんばんは♪^^

100年ですか~…

100年って長いですよね~


その間、隠し通せる嘘…
これができると”進歩”さえもしてしまうとは…

Posted by: りば^^ | 2008.05.06 12:10 AM

★りば^^さん
例えば、ダーウィンの進化論や、フェルマーの最終定理などがそうです。後者は350年バレませんでした。
ユークリッドの平行線の公理は2千年以上。
これらは人類をおおいに進歩させました。

Posted by: Kay | 2008.05.06 09:15 AM

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