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2008.05.08

エス

出逢いは偶然などと言う。
古い歌だが、中森明菜さんの「あなたのポートレート」という歌で、「あの日にボートがぶつかって、帽子を落としていなければ、他人のままでこんなときめきもない。恋は信じられない偶然」という詩がある。ロマンチックな出逢いである。
ところが、これが偶然ではないという見方もあり、CLAMPさんの漫画「ツバサ・クロニクル」のアニメの第1話のタイトルが「必然のデアイ」であった。CLAMPさんの作品ではよく、「この世に偶然はない。全ては必然である」と言われる。
エマソンは「あらゆる事実の必然的な理由を自分自身の中に見るべきである」と言った。
ニーチェは「偶然を自分の意思であるとして愛する」という運命愛を語ったし、イェイツは「宇宙大自然の偶然を自らの意思とすることで神に近付く」と言ったのは、ニーチェに近いものと思う。
実は、偶然と言い、必然と言い、その正体は謎なのである。
その中で面白いのは、ドイツ人医師で「心身医学の父」と呼ばれるゲオルク・グロデックのエスである。エスはドイツ語で、ラテン語のイドもよく知られているが、英語では単にit(それ)である。フロイト精神分析学の重要な用語であるが、その説明は実にいい加減に感じるもので、聞いてもさっぱり分からない。で、私もいい加減に言うなら、エスとは無意識に潜む生命エネルギーである。エネルギーという物理量が無意識という精神の中にあると言うのであるから、いい加減なことこの上ない(笑)。
フロイトのエスは、実はグロデックのエスを借用したものであるが、両者はかなり異なっている。
グロデックによると、転んで脚を折ったとしたら、それはエスの仕業である。エスなしに何も起こらないのである。よって、先程の中森明菜さんの歌で、ボートがぶつかって帽子を落としたのもエスの働きである。
病気になるのもエスによるものであれば、治すのもエスである。
女性は、好きな男性の前では手が冷たくなる。それは、エスが、「手を暖めて欲しい」という女性の願いに応えたものである。
とにかく、グロデックのエスは面白い。

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