優柔不断な男は大物である
昔から、人気漫画などで、イケメンでもなければ、特に人に秀でた部分があるわけでもない普通の男の子が、複数の美女や美少女にモテるという設定のものがよくあるように思う。
これは、男性読者の大半である、平凡な男の子に希望を持たせようという意図とも取れるが、そうとばかりは言えないことを鋭く洞察する(笑)。
高橋留美子さんのいまだ人気の高い漫画(アニメ化)「めぞん一刻」では、どちらかといえば冴えない男の子である五代君は、年上の美しい未亡人の響子に一目でメロメロになる。やがて響子も五代君に好意を持つようになるが、2人の仲はなかなか進展しない。そのうち、五代君にはこずえという可憐な女子大生のガールフレンドが出来るが、五代君はどちらか一方を選ぶことができない。さらに、一目で見惚れるほどの美少女高校生までもが参画してくるが、信じられないことに、五代君は、誰にも手も出さない(響子に手を出す度胸はないだろうし、こずえには出しかけたが、勢いを感じない)。
高橋弥七郎さんの人気小説(アニメ化)「灼眼のシャナ」では、ごく平凡な高校1年生である坂井悠二は、外見は11~12歳だが絶世の美少女と言って良いシャナと、クラスメイトで純情可憐にして、着やせするが巨乳という美味しいとこだらけの美少女、吉田一美の2人にあからさまな好意を示されるが、やはりどちらかを選べず、この2人の美少女をヤキモキさせ、挙句、彼女達は結託して悠二にいずれかに決めさせようとするほどである。シャナに手を出すと命の保証はないが、一美は食べておけばと思うのは私だけだろうか?(笑)
谷川流さんの人気小説(アニメ化)「涼宮ハルヒ」シリーズでは、やはり凡人である高校1年生男子のキョン(あだ名。本名は出ない)は、事実上、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希の3人の美少女に好意を寄せられるが、誰にもあやうい行動を取らない。特に朝比奈みくるには、「惚れちまいそう」とか「持って帰りたい」と思うほどメロメロである割には何もしない。朝比奈みくるの友人で、頼りになる先輩女子高生の鶴屋さんには、みくるに手を出してはいけないが、ハルヒはやっちゃいなさいと言われるが、そんなことをしそうもない。さらに、性格は変わっているが、中学時代のクラスメイトの超美少女や、妹の親友で、小学生ながら6年生になってビューティー度も超進化した早熟美少女まで参戦の気配だが、キョンがおかしな行動をすることはまずあるまい。
これらのモテモテ平凡少年達は、優柔不断と感じると思う。
真のヒーローは、しっかり決断し、いったん決めたら迷わないものと考えられていると思うが、それでいえば、全くヒーロータイプでない。
では、彼らがしょーもない男の子達で、美女・美少女達の見る目が曇っているだけかというと、なかなかそうでもない。確かに平凡なのだが、これが実に素晴らしい男の子達なのだ。ではどこが素晴らしいのかというと、奇妙なことに、私は、その優柔不断さであると思うのである。
日本の歴史上最大のヒーローと言えば、色々意見はあるだろうが、実質で言えば、徳川家康をあげても、さほどの文句はあるまい。たぬき親父のイメージすらある知略家であるが、文武共に優れ、人間性も高い傑出した人物と思う。その家康が、実は優柔不断な男であったことは間違いがないようだ。なかなか物事を決断せず、家臣達の会議を眺めてはいるが、自分の意見を言うことはあまりないといったことが実際であったらしい。
そして、気付くことがある。世の大物で、決断力が凄く、なんでもバシバシすぐに決める人というのは、実は少数派であるのだ。むしろ、大物というのは、考えをコロコロ変えるので部下に嫌われることも多いと思う。いや、もっと言えば、彼らの考えが読めない。ひょっとしたら、大した確信など持っていないかもしれない。
ビル・ゲイツなど、重要な決断を電光石火かつ完璧に行うイメージがあるが、案外にそうでもない。一応やってみて、うまくいかないとあっさりやめるようなことも実はかなりやっているのである。
「荘子」に、「なりゆきにまかせ、判断するな」という言葉がよく出てくる。責任者になるなとも言われている。この深い意味を考えると偉大な知恵を得られる。
人間の知恵がいかに卑小なものか。ことに欲が絡んだ時の判断は必ず間違う。
このことをよく知っているのは、ギャンブラーや相場師であろう。自分のために自分で買った馬券は基本的に当たらない。儲けようとして株をやっても損をする。
以前、人気ドラマ「古畑任三郎」でこんなシーンがあった。
キムタク演じる爆弾犯が時限爆弾を仕掛ける。それを止めるには、赤か青のコードのいずれかを切らないといけないが、間違った方を切ると、即爆発する。
任三郎は爆弾犯に「どっちを切ればいい?」と聞く。爆弾犯は「赤」と言う。2人はしばらく見詰め合うが、任三郎は、部下に「青を切れ」と命じる。それが正解だった。
任三郎がなぜ、青が正解と分ったかは曖昧にされたと思う。
詳細は忘れたが、おそらく任三郎は、赤が正解と思ったのだ。それで反対の青を選んだのだ。
作者はタダモノではない。あるいは、結構なギャンブラーだ。
任三郎は、絶対に自分で選択してはならない。そこで爆弾犯に選ばせた。爆弾犯が「赤」と言った時点で「青」でも良かった。爆弾犯は間違った選択をするはずなのだ。間違いとは、爆発の方である。しかし、任三郎は確率を高めることにした。爆弾犯をみつめるうちに、自分も赤で爆発しないと思った。そこで躊躇無く青を選んだのだ。
ん?納得できない?
これがギャンブルの秘訣なのであるが(笑)。
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