芸術家はマゾである
子供の頃、本宮ひろしさんの「俺の空」という、時々ものすごくエッチな場面のある漫画を読んだことがあるが、その中で、主人公の安田一平の父親である超大物経営者が言った、「経営者に大切なのは勘だ」というセリフを見て、妙に感動したのを憶えている。
だが、経営者の勘が重要なのは、起業時と急成長時であり、その後は戦略や計画が大切になる。
米国のIT起業の盛衰を見るにそう思う。
成長し続けるIT起業の代表は、マイクロソフト、グーグルといったところだし、逆に、ダメになったのは、古いところも含めると、デジタルリサーチ、アシュトンテイト、ロータス、ノベルと思う。
ビル・ゲイツの何が偉大かと言うと、彼は確かにベンチャー起業家に相応しい恐るべき鋭い勘を持つと共に、大変な知的戦略家でもあるのである。そして、会社が急成長すると、彼自身は開発の現場から早々に身を引いた上、財務など、専門外のことは早くからスペシャリストに委託したのである。
一方、創業者がいつまでもベンチャー気分でいる会社は、いつまでも成長は続いていない。
スティーブ・ジョブズも実に素晴らしい。アップル社が急成長した後、超大物経営者であるペプシコーラ社長のジョン・スカリーを引き抜いてアップルの社長にしてしまった。ここらがただのベンチャー起業家との違いである。彼はそのすぐ後に、会長でありながらアップルを追われたのであるが、アップルが傾いた時に請われて復帰し、その類まれな直感と感性で再びアップルを成長させた。だが、もし彼が昔と同じであれば、そろそろ去り時かもしれない。
しかし、考えてみれば、芸術家なんて一生ベンチャー起業家みたいなものである。
研ぎ澄まされた感性と勘で、次々と新しいスタイルを作り、自分の壁を破っていかない限り成功はあり得ない。上手いだけの絵描きは芸術家ではないし、喝采を浴びることもない。
企業の場合は、創業の時ほどの勘が不要になっても、優秀な経営を行う限り、創業時の急成長ほどでなくても成長し、安定した繁栄を謳歌できる。しかし、芸術家にゆるやかな成長や安定はない。泳ぎ続けなければ死んでしまうマグロやサメのようなものである。
それでも芸術家になりたいなんてのは、一種のマゾではないかと私は本当に思う。
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