« 看板娘の考察 | Main | 生ける死人 »

2008.02.29

独房からの生還

一昨日の続きである。
学校でシカト(無視)のいじめに遭い、自殺ではないが、生命力が無くなって死んでしまった女の子の実話に基づいた話を取上げたが、これに医学的根拠があるらしいことも説明した。
人間とは、このように孤独に弱い。
軍隊で、独房というものがよく使われるのも、人間の弱さにつけ込んで支配するためである。現在、戦争捕虜であっても、人道的に扱わねば国際的な非難を受ける。よって、露骨な拷問などを控えることが多いが、独房監禁であれば拷問とは見なされない可能性があって都合が良いという事情もある。
しかし、状況によっては、独房行きは即ち死を意味するのである。

現在の我々でも孤独に陥る可能性はあるし、それこそいじめや悪意でシカトされる状況はよくあると言える。こんな時、気力が途切れてはまずい。そこで、軍隊での独房に耐えた例から、想像力により精神エネルギーを高めることについて考察する。

コリン・ウィルソンの「至高体験」という本がある。至高体験はアブラハム・マスローが提唱した心理学用語である。
ウィルソンが書いたある本に対して、マスローが感想の手紙を送ったのであるが、ウィルソンは手紙の内容がよく理解できなかったので放置していた。しかし、時間を置いて読み直すと、その重要性に気が付き、マスローに手紙を返した。ここから2人の交流が始まる。
マスローは世界一級の心理学者であったが、ウィルソンはそこそこ売れていたとはいえ、中卒の肉体労働者上がりの作家であった。しかし、やがてウィルソンは大学のマスローの教室で講義を行うようにもなった。

この「至高体験」の本の最初のあたりに、ロマン・ゲイリの「天国の根っこ」という小説の引用があるが、これが面白い。
戦争中、1つのフランス兵団が、ドイツ軍の捕虜になる。捕虜生活の中で、フランス兵達のモラルが低下していき、悲惨な状況となる。ここで、フランス兵の隊長は奇妙な命令を発する。
「ここに少女が1人いると想像せよ」である。
本には詳しくは書いていなかったが、この場合の少女とは、理想の女性像のようなもので、女神に匹敵するようなものであったと思う。
すると、フランス兵達の規律がみるみる回復し、ドイツ軍の者達を驚かせる。だが、ドイツ軍のある将校が、ひょんなことから、この「遊戯」の秘密を知る。そこで、試しに、もっと奇妙な命令をフランス兵達に出す。「少女を引き渡せ」である。少女はドイツ軍用の慰安施設に連行すると通達した。すると、なんとフランス兵はその命令を拒否する。想像上の少女を命を懸けて護ろうとしたのである。そして、フランス兵の隊長は独房行きとなる。彼が生きて戻ることはないはずであった。
しかし、彼は生還したのである。彼もまた、少女を作り出す遊戯を通じて、精神の力の秘密を知っていたからである。独房で彼は、平原を走る象の群を想像していたのだ。

根本的には、想像力が世界を作っているのである。人とは精神そのものであり、人間とは何かとは、究極的に言うなら、意識とその無限の内容物を照らす純粋な気付きであると、インドの聖者ニサルガダッタ・マハラジが言ったが、最新の脳機能科学においても、そのような考え方が多くなってきていると思う。
そのやり方を早計さと欲望から誤解してはならないが、好きなように世界を作れば良いのである。まあ、世間には意図的に間違った方法を教え込む困った教祖が多いのは困ったものであるが、人間は奇跡を起すことなど訳はない。

学校においては、想像力は速やかに破壊され、精神を満足に活用できなくなるので、意識的に学校を疑い、これが劣悪なものと理解したなら背を向ける覚悟も必要である。ただし、日本最高クラスの思想家の吉本隆明氏は、世間自体に不条理は溢れており、学校は世間を学ぶための反面教師として、適当にうまく付き合うことを薦めている。過度な被害を受けない限りはそれもありと私も思う。人間精神は偉大であるが、表出する自我は下らないものであるのだ。ただ、あくまで学校とは、せいぜいが適当に付き合うことだ。そして、ある程度賢くなれば、さっさと捨てれば良い。

小説や絵画といった芸術、あるいは、映画やアニメ、あるいは漫画であっても、想像力を磨くような鑑賞や楽しみ方をすべきであろう。
現在は、表面的な愉快さしかない、薄っぺらな作品も多いと同時に、優れた奥深い作品であっても、学校での教育の影響で、薄っぺらな理解しか出来ない者がひどく多くなってきているが、憂慮すべきことである。
だが、優れた作品に接しているうちに、心が磨かれて曇りを祓い、精神が復活するであろう。同時に、クリエイターの方々には、精神を覚醒させる素晴らしい作品をお願いしたいものである。単に上手い絵や面白いお話には、もう飽き飽きしなければならないのである。

↓よろしければいずれか(できれば両方)クリック願います。人気投票です。
人気blogランキングへ ブログランキング・にほんブログ村へ

|

« 看板娘の考察 | Main | 生ける死人 »

Comments

なるへそぉ~
想像力の大事さを改めて痛感しました^^
疲れている時などは、想像することが一番です
得意分野で・・・(笑い
自分の世界は、どうにでもキャスト出来ますしストーリも思いのまま
が、しかし・・
私の場合、経験状の思いが内容を固定化するのが欠点
^^;
もっと想像力を磨かねば・・

今日のセミナーにwで。。

Posted by: ヒデピョ~ン。。 | 2008.03.01 06:58 PM

欲から出た想像は必ずしも良いものではないとか^^;
や、やっぱり女神様ですね(笑)。

Posted by: Kay | 2008.03.01 09:12 PM

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 独房からの生還:

« 看板娘の考察 | Main | 生ける死人 »