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2006.11.25

心の力の使い方

1998年に亡くなられた映画評論家の淀川長治氏を憶えておられる方も多いだろう。
日曜洋画劇場では32年間解説を続けたが、最後の解説映画は「ザ・ラストマン・スタンディング」で、私はこれの解説をよく憶えている。いや、解説の内容ではなく、もはや声もかすれ、一目で苦しいことが分かるが、それでも熱のこもった解説をされていたのを鮮明に憶えているのだ。このブルース・ウイリス主演の映画も素晴らしかったが、淀川氏は、このタイトルも絶賛しておられた。「真の男」の姿をウイリスが鮮烈に演じていた。
そして、淀川氏は、この解説収録翌日に死去。なんとこの解説は、本人の希望で取り直しをやったそうだ。

私は、淀川氏が、アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」を四百数十回見て、見る度、必ず涙を流すと言ったのをよく憶えている。
私はこのDVDを購入し、しっかり見てみた。
私は、後に見た、ジュリアーノ・ジェンマ主演のマカロニウエスタン「怒りの荒野(原題:Days of wrath)」との共通性を感じる。(私は原題の「怒りの日々」の方が良いと思う)
昨今のいじめ問題を考える上でも良いヒントがあると思う。
「太陽がいっぱい」のトムも、「怒りの荒野」のスコットも、才気溢れる青年であるが、生まれが貧しかったり、私生児であるがゆえに、蔑まれたり、理不尽な扱いを受ける。
トムはまだうまく世渡りしており、富豪の令息の友人になったりしているが、だからこそ、持つ者と持たざる者の違いが身に沁み、その友人にも結局は見下されていることを知っていて、日頃の友人の言動に、心に恨みを積もらせていたに違いない。
一方、スコットは私生児として、町中で蔑まれ、辛い毎日を送っている。掃除や汚物運びのようなことをさせてもらって何とか生活しているが、その扱いは犬以下である。だが、壊れた銃で毎日早撃ちの練習をし、いつか銃を買って何かをやってやろうと密かに思っていた。そんな時、街にやってきた流れ者の凄腕ガンマン、タルビーに出逢い、その風格、凄味、カッコ良さに一発でまいってしまう。トムは根は純情な青年だったが、タルビーと組み、街を牛耳るようになった時、かつての恨みの反動は彼を無軌道な支配者にしてしまう。

2つの作品には、理不尽に心に傷を受けた人間の悲しさが鮮烈に描かれていたと思う。
淀川氏は、彼もまた苦しい境遇にあったに違いない。彼は、家は金持ちであったが、複雑な家庭事情であったことは、淀川家の血筋を途絶えさせるために独身を通したという告白から明らかと思う。
いじめを受けた経験のある者も、この2つの映画に強く感じるものがある場合が多いと思う。
その苦しさから逃れ、自分の居場所を確保するため、犯罪を犯したり、独裁者になることの何が悪いのかと思ってしまう。ましてや、それもできずに自ら命を絶つような子供のことを知るとさらに強くそう思う。この考えが間違いであることは理解できるのだが、私にはどうしても否定できない。蔑み、迫害し、いじめをする者達がやめてくれることを待つしかないとは思いたくないわけである。

コリン・ウィルソンの「至高体験」で読んだが、ロマン・ゲイリの「天国の根っこ」という小説(翻訳は無いと思う)には、堕落する運命、あるいは、死ぬ運命にある者がいかに心の力を使って踏みとどまり、死に打ち勝ったかが描かれている。
いじめ問題を、無能でやる気の無い学校や教師にまかせておいては何も解決しない。また、タレントなどが「いじめをする者は卑怯な人間です」なんて分かりきったことを唱えてもどうにもならない。いじめを行う者にはいじめの自覚はない。単に心の快感の追求とある意味での秩序維持を行っているに過ぎないのであるから。
また、上記の書籍にあった、心の力を使う方法は、子供たちには無理かもしれない。なぜなら、学校では自分の心を自由に使うことができないように強制されるからである。それはまるで、毒虫の群れに入れられる前に、服と火を取上げられるようなものである。それでは死ぬしかない。自殺した子供たちとは、そのような状況にあったのである。
「天国の根っこ」の話を少し紹介すると、捕虜になった兵士達が堕落の極みに達しかけた時、隊長は1つの遊戯を提案する。ここに理想の少女が居ることを想像せよだ。捕虜達はたちまちモラルを取り戻す。敵側の将校は試す。「少女を差し出すように。彼女は我々の慰安婦施設に行ってもらう」。すると、なんと捕虜達はそれを断り、隊長は独房に連れて行かれる。それは確実な死を意味した。しかし隊長は死ななかった。想像の少女との遊戯で、心の使い方を身につけたからだ。

20061125

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