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2006.08.24

医者の資質と芸術家の資質

我が敬愛する「精神身体医学の父」と呼ばれるドイツ人医師ゲオルク・グロデックが医者になったきっかけというのが面白い。
グロデックには、兄が2人いたが、医師であった父親は兄達には医者になることを禁じた。しかし、ゲオルグにだけは「医者になる気はあるか?」と尋ね、それまで家族の中で居場所がなかったゲオルグは、父が自分を認めてくれていると思って嬉しくなり、「はい、あります」と返事をしたことで医者になることになったらしい。
ではなぜ、父親がゲオルグに医者になることを薦めたのか?
それは、ゲオルグが3歳の時、姉と人形遊びをしていたのだが、人形にもう1枚服を着せようとした姉にゲオルグは強く反対した。しかし、結局、姉の案が取られることになった時、ゲオルグは「お人形さんが息が出来なくなっても知らないよ」と言った。これを見ていた父親が、ゲオルグに医者の資質を認めたのだった。
ではなぜ、このことが医者の資質であるかというと、ほとんどの人が思い違いをするだろう。「お人形さんが息ができなくなる」ことをそれほど恐れたということは、いかにも患者に気を使う医師に向いてそうな感じだが、実は、この恐れは、誰かを殺したいという願望が抑圧された反動なのである。殺したいという気持ち、そして、それを恐れるという気持ちのバランスが医者にとって必要なものらしい。

有名な絵描きというものは、ほぼ例外なく子供の時に天才の片鱗を見せていたと思う。その才能がうまく育てられた場合に絵描きへの道ができる。
ただ、その場合も、商業画家になるのが圧倒的であり、芸術画家になるには、やはり何か特別な資質が必要と思う。
岡本太郎は、「芸術家を目指すほどの人なら、自己愛と自己嫌悪が渦巻いているはず」と言ったが、この相対するもののバランスという意味で、上のグロデックの医者の資質と何か通じるものがあるように思う。いや、全く同じと思う。
グロデックの本は文学的価値も素晴らしいらしいが、良い医師はどこか芸術家であるように思えることもある。

グロデックの殺人を恐れる気持ちが仮面で、殺したいという気持ちが本性である。
そして、自己愛は自己嫌悪の反動であり、自己嫌悪が本性である。
芸術というものは、このような人間精神のせめぎ合いの中で生まれるものである。
そして、本性の部分は悪と思える場合が多いかもしれない。
大人の男による幼女や少女の殺人事件が起こることがある。一人で何人も殺した例もある。これらの事件は大人の男の歪んだ性的欲望が原因である。しかし、倒錯者が必ずしもこのような事件を起こすわけではない。殺人者は、この欲望に対する反動が心に生じない。この反動が強く生じれば葛藤が生まれる。ここに芸術が生まれる可能性がある。
実際、芸術家の中には、決して道徳的とは言えない者もいる。また、良い人に見える場合でも、後に日記などで、その内面には醜い欲望が渦巻いていたことが明らかになった場合も少なくはない。しかし、彼らはその反動である罪悪感や自己嫌悪を強く持っていたに違いない。
芸術家は内面に醜い欲望を燃やしながら、同時にそれを嫌悪、あるいは、恐れた者であると思う。

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