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2006.06.02

同じ言葉がもたらす愛と呪い

私はあまり音楽の趣味は広くはないのだが、気に入ってしまえば本当に何度も聴いている。
そんな中に、KOTOKOさんの“agony”がある。聴いた回数は百回は下るまい(?)。
agony---苦痛、苦悩、断末魔の苦しみ、狂わんばかりの気持・・・という意味らしい。良い言葉である(笑)。
KOTOKOさん自ら作詞した歌詞の中にこんなフレーズがある。

「君がいるからだよ」と、闇に落ちた言葉、離れない

これは良い意味に解釈されると思う。男から女に言うと女は嬉しいと思うが、別に女が男に言っても良い。いや、この歌の因縁で言えば、女が女に言うのでも良い(笑)。

だが、芥川龍之介の短編小説「藪の中」では、まさにこの言葉が闇に落ちて離れなかった話があった。彼にとって、この言葉は最大の“agony”だった。
芥川の作品は、思いのほかきちんとしていて解しやすいので、中学あたりの教科書にもよく使われていたと思う。しかし、この「藪の中」は未来永劫、絶対に採用されないと思う。

侍とその妻が旅をしていた。
盗人の男は、その妻の顔を瞬間見ただけで一目惚れしてしまう。そして、2人を騙して藪の中に誘い込み、侍を杉の木に縛りつけ、その前で彼の妻をレイプする。
侍にとっては最大の屈辱である。しかも、盗人は侍の妻に、「こうなっては夫の元に戻りようがないだろうから、自分の妻になれ」と言っている。さらに、盗人に「俺はお前が愛しいと思うからこそ、こんな大それたマネをしたのだ」と言われた時の妻のうっとりとした顔は、その侍が見たことのない美しさだったという。
ゲオルク・グロデック(ドイツの医師。心身医学の父と言われる)は、法を犯してまで自分を求めた勇者の存在に、女が深い満足感を得ることがあると書いていた。
そして、侍の妻は、盗人の申し出を受けたのだ!
しかも、それでも終わらない。侍の妻は、盗人に、夫を殺してくれと言う。
そして、次に言った言葉が、あの歌の歌詞とシンクロしたのだ。
「あの人が生きている限り、私はあなたと一緒になれない」
侍は、これほどの呪わしい言葉が世の中にあるだろうかと思った。いや、盗人でさえそう思ったのだ。
似たお話に、フランコ・ネロ主演の「ヒッチハイク」という映画があるが、制作者は「藪の中」を読んでいたのかもしれないと思った。

KOTOKOの歌と芥川の小説が見事に融合する体験をすることができた。ところで、KOTOKOの詩もまた見事である。
尚、芥川は、話を面白くするために、実に見事なテクニックを使っている。新潮文庫の「地獄変・偸盗」に収録されている。良かったら読んで欲しい。

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