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2006.06.24

光り輝く思い出

「天使の出現」(日本経済新聞社)という本がある。
人間ってのは自分が神様だと思っているし、特に自分の賢さを絶望的に信じているものだが、ちょっと認識を修正しようという気になる本だ。
著者の野口悠紀雄氏は1940年生まれ。東大工学部を卒業後、大蔵省入省、エール大学で経済学博士号取得、一橋大学教授、東大教授・・・まあ、超エリートだ。
しかし、彼は全て偶然と言う。そう思わざるをえないようだ。幼年期を第2次世界大戦下で過ごし、東京大空襲時に防空壕に逃げ込んだ。先に逃げ込んだ者達は窒息死したが、彼は後から来たおかげで、扉の隙間から外の空気を必死に吸い込んで生き延びた。自分が生きているのは偶然に過ぎないと言う。
この本の表紙に、「キリストの洗礼」という絵が小さくプリントされている。作者はヴェロッキオ。フィレンツェの巨匠だ。左下に2人の天使が描かれている。1人の天使はキリストを見ているが、もう1人の天使は、その天使を驚いたような顔で見ている。
キリストを見る天使を描いたのは、ヴェロッキオの弟子だった若きレオナルド・ダ・ヴィンチだ。もう1人の天使が、その天使を見る愕然とした表情は、ヴェロッキオの気持ちかもしれない。その天使のあまりの素晴らしさに、ヴェロッキオは二度と絵筆を取らなかったという(専門の彫刻に専念したという説もあるらしい)。

尚、「天使の出現」とは、人生の中の光り輝く瞬間のことだ。それは、他人から見て必ずしも華々しいものとは限らず、むしろ、なんでもない出来事のことも多い。
野口悠紀雄氏は、自分のそんな瞬間を明かしている。詳しくは本を読んでいただいた方が良いが、戦争直後、何もない中で、子供だった彼が友達とやった他愛もない遊びだった。何の道具もなしにできる遊び。しかし、野口氏は、テレビゲームやディズニーランドでしか遊べない今の子供達を哀れむ。
「まほろまてぃっく」という、アダルト作家の中山文十郎氏原作のぢだま某氏の漫画があり、あのガイナックスがアニメ化した。そのアニメの最終回で、非情で巨大な悪の組織で生きてきた、身体はサイボーグ化した老人が言う。「故郷を離れて長く暮らせば、取るに足らない、どうでも良さそうな景色が、ひどく懐かしいものに思えてくる。子供の頃、裏山にあった大きな木。草をざわざと波立たせながら岡を越えていく風。夢を語り合った仲間達。そして潮騒。水平線に沈む夕陽。私はどうしてもあの故郷へ、青い地球に帰りたい!」
巨大な悪の一員として過ごした中で、偽りの歓喜や快楽も際限なく味わった老人の人生で、光り輝いた瞬間とはそんなものであったことに感慨を憶えた。
「まほろまてぃっく」・・・萌え系の方々に人気の高い漫画・アニメであるが名作である。

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